恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「陽妃さんのせいだしよ! どうしてくれるの? どうしてくれるの!」


「やめよーさい! 葵! やめよーさい!」


何するんかね、この子、と暴れて抵抗する葵ちゃんを力ずくであたしから離し、


「わっさん……ごめんなさい、須藤さん」


彼女の父親は深々と頭を下げた。


「くら! 葵! やーも謝りよーさい」


父親に腕を掴まれた葵ちゃんは、


「何でか! 何でわんが謝らんといけねーらんか!」


とその手を思いっきり振り下ろして払い、


「悪いのや陽妃さんなんだしよ!」


エレベーターの方へ走り去ってしまった。


鎖骨の辺りがチク、と痛んだ。


「いっ……」


その部分に触れてみて見ると、細く赤みを帯びた傷ができていた。


掴みかかられた際に、引っ掻かれてしまったらしい。


「本当にすみません、大丈夫ですか」


あの子、今、気が動転してるんです、と葵ちゃんの父親はあたしに何度も何度も頭を下げた。


「海斗くんがこんなことになって、ショックを受けてしまったのさ」


「あ、いえ。大丈夫ですから。あの、海斗のご両親は」


「ああ……」


と葵ちゃんの父親が肩をすくめた。


「今さ、担当の先生から説明受けてるさ」


「そうですか。あの、じゃあ、あたし海斗のとこに」


「ああ、病室ね、ここを真っ直ぐ行って突き当りを右に曲がってさ、ふたつ目の部屋さ」


「ありがとうございます」


会釈をして向かおうとしたあたしに、


「須藤さん。あのさ、海斗くんさぁ……」


と葵ちゃんの父親は何かを言いかけ、「なんでもない」と意味深に苦笑いして、会釈をしたあとその場を去って行った。


「……何、今の」


すごく何かを言いたげな様子だった。


葵ちゃんのお父さん、今、何を言おうとしたんだろう。


あたしは首を傾げながら、病室へ向かった。