恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

『陽妃?』


「あ、出た」


『出るわよ、そりゃあ。どうしたの? そっちで何かあった?』


心配そうな声が返って来る。


「ううん。何も。あのね、今、おばあの家に電話したの。でも、繋がらなくなっちゃって」


すると、お母さんは冷静な声で「ああ」と言った。


『本当に今さっき。こっち、停電になったの。おばあの電話は昔のだからそのせいかも』


「あー、そうかなとは思ってはいたんだけど」


電話の向こうは何やら騒がしい。


どうやら民宿にいるようだ。


「お母さん、民宿にいるの?」


『そうなのよ。ほら、フェリーが欠航になって帰れなくなったお客さんがたくさんいてね』


今日も帰れそうにないかも、とお母さんは少々疲れ気味の声だ。


「大変そうだね、そっち」


『まあ、ね』


と返って来た声の後ろでお母さんを呼ぶ声がした。


『大変! 陽妃、停電の次は断水みたい』


「えっ!」


『ああ、とにかく行かなきゃ』


「うん、分かった。頑張って」


『うん。あ、でも何かあったらすぐに連絡してね』


「うん、じゃあね」


電話を終えて部屋に戻ると、里菜と悠真は真面目な顔でテレビを観ていた。


あたしに気付いた里菜が「終わったかね」と微笑む。


「うん。今、お母さんと話したんだけど、与那星島、停電と断水で大変みたい」


「えーまじかねー。こっちもさ、ほら」


と里菜がテレビを指さす。


「波照間で怪我人が出とるよ。ふたりだって」


「うわ、本当だ」


窓を打つ雨は分刻みに強くなっているようだ。


さっきまであんなにおちゃらけていた悠真もさすがに顔色を変えている。


「そうとうでっかいかじふちやさ」


テレビ画面が台風の進路予想にぱっと切り替わる。