恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「神様?」


振り向くと、そこには大きな大きな木があった。


そこはさっきまであたしがうたた寝していた場所だった。


「あの木には、神様が宿ってるって。裏のおばあが教えてくれたよ」


よく見ると、木には色褪せたしめ縄がしてあって、黄ばんだ御札のようなものが一緒にくくりつけられていた。


たっぷりの葉が、波風でさわさわと音を立てて揺れる。


「あの……海斗」


「何か?」


もしかして……。


「あれ、ガジュマルの木?」


「あいっ、よう分かるねえ」


海斗はびっくり顔であたしを見つめた。


でも、どんな表情でも、海斗の目は澄んでいた。


「さっきここへ来る途中でおばあちゃんが言ってたの。ガジュマルの木に触れたらだめだって。災いが起きるって」


海斗がこくりと頷いた。


「そうさ。今日みたいに風が強くて波が高い日は、触れたらいかん」


そう言って、海斗は海を見つめた。


その横顔から、あたしは目が離せなかった。


澄み切った瞳の奥に、海斗にしか解らない暗闇があったなんて、あたしは気づきもしなかった。


まるで黒真珠のような瞳がとてもきれいで、あたしはひたすらドキドキしていた。


「陽妃。帰ろう。今日は宴会さあ」


「宴会?」