恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

時計の針は今、間もなく50分を指そうとしていた。


思いのほか時間がかかってしまった。


あの向かい風に行く手を阻まれてしまった。


窓ガラスを雨風が叩き、カタカタ揺らした。


外はどんどん荒れてくる。


あと10分でターミナルに戻れるだろうか。


でも、戻るしかない。


きっと、戻りは追い風だ。


きっと間に合う。


と、教室を出ようとした時だった。


バタバタと駆け抜けて来る足音が廊下に響いて、それはあっというまに迫って来た。


「陽妃ーっ!」


と、その声が聞こえて来た、次の瞬間。


後ろ側の入り口に現れたのは、ふたり分の鞄を抱きしめるびしょ濡れの里菜だった。


里菜と目が合った直後、またドタドタと誰かが走って来る音が廊下に響く。


「危ねーらーん! どけー!」


悠真の声だ、と直感した。


「はっさあああああ!」


里菜がぎょっとして、左方向に叫んだ。


「バカかーっ! 止まりよーさーーーーーい!」


本当に、一瞬の出来事だった。


里菜を巻き込んで、悠真は教室前の廊下をヘッドスライディングで駆け抜けた。


ぎゃあああ、と雄叫びと共に、あたしの視界からふたりが消えた。


「……えっ。ちょっと!」


慌てて飛び出すと、廊下は雨水で濡れた跡が長く伸びていて、その先には3つの鞄が散乱していた。


どうやって、そうなったのか、見当がつかない。


うつ伏せの大の字に倒れ込んだ悠真。


彼の上に仰向けになって里菜が重なり、複雑に絡まりながら倒れ込んでいた。


ふたりともうんうん唸っている。


「あがぁー……」


むくっと体を起こした里菜が痛みに顔を歪ませ、悠真の背中を拳でど突いた。


「なにするのさー! 怪我させる気かね!」


「あがっ……わっさーん……あがー」


悠真は潰れたカエルのように廊下に貼りついたまま、ぽかぽかと里菜に殴られ続ける。


「なんで悠真まで来ちゃんのさ! アホかー」


「わっさん、あがっ! わっさん、あがっ! エー叩くなよー!」


「いいさーもー。何でか? 何でそんなにバカなのさ!」


泣けてくるさーもー、と里菜が悠真の後頭部を殴る。