恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「1日2日携帯なくても死なんよーかじぶちが行ってからでもいいさー」


今はフェリーに乗ることが先決だ、とあたしの腕を掴む悠真の後方で里菜もこくこく頷いている。


「何さー携帯くらいさー」


ぐいぐい、悠真が引っ張る。


「離して!」


あたしはそれに全力で逆らった。


「分かってるよっ!」


あたしの大きな声に驚いたのか、ぎょっとして悠真が固まった。


「……分かってるよ」


自分でもバカだなって思う。


この状況で執拗なまでに携帯電話に執着して、バカだなって。


悠真の言う通りだ。


携帯くらいなんだって話だ。


「でもっ……大切なものなんだもん! あたしの宝物なんだもん! すっごくすっごく大切なんだもん!」


あたしはきゅっと唇を噛んだ。


「悠真は携帯くらいって言うけど」


あの携帯電話にはカフーが付いている。


小さくて、まあるくて、透明な青色の。


幸せが付いている。


「あれは、あたしのカフーなんだもん」


周りから見たら、ただのストラップにしか見えないだろうけど。


でも、あれは。


あたしにとってはすごくすごく大切なものだ。


だって。


海斗がくれたものだから。


カフーが来るように、って。


――陽妃に幸せが来るように


って、海斗がくれたんだもん。


「ごめんね!」


あたしは悠真の手を振りほどき、ターミナルを飛び出した。


出港まであと約30分。


学校まで全力で走れば10分くらいで行けると思う。


絶対、戻って来れる。


ポツ、ポツ、と降り出した雨の中、あたしはがむしゃらに走った。


強さを増す一方の向かい風に逆らい、降り出した雨に向かって。


ところが、あたしは沖縄の台風を甘く見ていたらしい。


雨交じりの向かい風の中、びしょ濡れになりながらもなんとか学校に辿り着き、教室に飛び込んで机に手を突っ込む。


カシャ、と音がして、固い感触があった。


「あった」


ほっとしたのもつかの間、あたしは携帯を握り締め、黒板の真上に掛けられた時計を見て、がく然とした。