恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

突然、海斗が真面目な顔になって、あたしの顔を覗き込んできた。


吸い込まれそうで、あたしは息を飲んだ。


なんて……きれいな目を、海斗はしているんだろう。


「ナダーぬ跡があるねえ」


「へっ……ナダー?」


海斗は切なそうに綺麗な目を静かに細めて、あたしの顔に手をのばしてきた。


「ナダは涙のことさ。何か? 悲しいことがあったんかあ?」


あたしの目尻にそっと触れた海斗の指先はひんやり冷たくて、心地良かった。


「え……何も……」


そんなこと、言えなかった。


信じていた彼氏に、親友にも裏切られて。


その夢を見て泣いてしまった、だなんて。


情けなくて恥ずかしくて、口が裂けても言えなかった。


「我慢しなくてもいいさあ」


あたしの目尻からそっと指を離して、海斗はやわらかく微笑んだ。


「泣きたくなったら、ここに来るといいさ。波はナダーと一緒に、悲しみも海の向こうに連れて行ってしまうー」


海斗は、最初からそういう人だった。


まるで凪いだ波のように、何度も何度も押し寄せてくる。


静かに、さり気なく。


それで、あたしの悲しみを涙と一緒に海の向こうに連れて行ってしまう。


海斗は、そういう人だった。


「こん島はでーじ不思議な所さあ。神様がいるからねー」


そう言って、海斗はあたしの真後ろを指差した。