恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

『大型台風23号は今夜にも八重山列島にもっとも接近すると予想され、この事から沖縄気象台は……』


「これは前回よりも大きそうねえ」


とテレビに向かって呟いたお母さんがあたしの足音に気付き、振り向いた。


「陽妃、おはよう」


「おはよー」


「お弁当作ったから持って行きなさい」


とお母さんがテーブルを指さした。


「ありがと」


お弁当をかばんに入れていると、お母さんが言った。


「台風、夜にはここにも来るみたいね。なるべく早く帰るつもりだけど。もし不安だったら裏のおばあのおとこに居なさい。お願いしておくから」


「大丈夫だよ」


あたしはいつものロールパンをかじりながら時計を見て、


「あー、もう時間。行って来ます」


鞄を肩に掛け、バス停に向かった。










バスを待ちながら、空を見上げる。


雲の流れが一段と早くなった気がする。


それから間もなくして、ずっと向こうにバスが小さく姿を現した時だった。


「はーるーひー!」


「……えっ」


集落の方から走って来たのは、制服姿の海斗だった。


気まずいったら、気まずい。


でも、逃げ場はない。


「陽妃っ。良かった、間に合ったば」


ハッハ、と息を弾ませながら走って来た海斗が、突然、妙な質問をしてきた。


「ちゃんと帰ぇーって来るかね」


「……は?」


あまりにも予想外のことを聞かれて、呆気にとられる。


「なに言ってんの……当たり前じゃん」


なんでそんなこと聞くんだろう。


へんなの。


「学校行ってくるだけだし」


「あ。そうだよね」


「うん」


ぎこちない会話をしているうちにも、バスはぐんぐん近づいて来る。


海斗が何か言いたげにじっと見つめて来た。


でも、なんだかやっぱり気まずくて、あたしはあからさまに目を反らしてしまった。