「おれさ、ばかだよね……おれだけが陽妃のこと好きやったんかね」


「……」


唇を噛んでいないと涙がこぼれてしまいそうだった。


「困らせてごめん」


そう言った海斗は、雨に濡れた子犬のように心細げな目をしていた。


口をきけずに唇を噛んでいると、次第に穏やかになった表情の海斗が、


「ゆくいみそーれ(おやすみ)」


踵を返した。


雨の中、遠ざかって行く海斗。


遠くなり、見えなくなっても、あたしはしばらくその場から動くことができなかった。


ひどい雨だ。


まるで、ふたりを隔てるように、雨はぶちまけるような激しさで降り続いた。















ふらふらと夢遊病者のように歩いて家に帰った。


玄関に入ると、物音で起きた美波ちゃんがリビングから飛び出して来て、


「あっきさみよー!」


全身ずぶ濡れのあたしを見て、ぎょぎょっと目を見開いた。


「どこに行って来たのさーねぇねぇー」


とたとた、可愛らしい足音を立てて美波ちゃんが駆け寄ってくる。


「風邪引いてしまうよ」


「あ……おばあの家」


「なんでか?」


「ルリ。ルリにご飯あげに行って来たの」


「ああー! ルリ、おった?」


無邪気な美波ちゃんの笑顔に、ふ、と力が抜ける。


「うん、来てたよ。あ、それと、海斗、帰って来たよ」


そう告げると、美波ちゃんはぱあっと笑顔になって、


「えー! にぃにぃー?」


やった! 、とジャンプして大慌てでサンダルを履いた。


「ねぇねぇ、おじゃましちゃん!」


そして、そのまま飛び出して行った。


「あっ、傘は?」


と引き止めたあたしに脇目もくれず、帰って行った。


あたしは小さく笑って、玄関のドアを閉めた。


美波ちゃんは、ほんとににぃにぃが好きなんだね。


大好きなんだね、海斗のこと。


……海斗のこと。