恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

ほんの数分だったのだと思う。


呆然と立ち尽くす海斗を、石垣の陰から見つめたまま動けずにいた時間は、おそらくほんの数分だった。


でも、とてもとても長く感じた。


あ。


ばか。


こっちに来るな。


そう思った時にはもう遅く、


「にぃー」


おばあの家の玄関先からルリが飛び出して来て、あたしの足元にいた。


「にー」


しっし、と追い払うジェスチャーをしてみるけれど、ルリは人懐こくあたしの足にじゃれついてくる。


「誰か?」


その声に背中がギクリと正直に反応してしまった。


……バレた。


「誰かおるんか」


ああ、もう。


踏んだり蹴ったりとはまさに今のあたしの現状をいうのだろう。


パシャ、パシャ、こっちに足音が近づいて来る。


逃げ場なんてない。


「にーぃ」


観念したあたしはフウと深呼吸してから、じゃれついてくるルリを抱き上げ、海斗の前に出て行った。


あたしを見るなり、目を見開いた海斗が立ち止まる。


「はる……ひ……」


「お、おかえり……なさい」


やあ、と壊れたブリキのおもちゃのように右手を上げると、海斗はバツが悪そうな様子で肩をすくめた。


「いつから、そこにおったのかね」


「……あ」


ほんとに。


いつから、いたんだっけ。


「あの、ね……」


なんか、頭が回らないや。


あたし、いつからここにいたんだっけな。


……何しに来たんだっけ。


腕の中でルリが鳴いた。


あ。


そうそう。


ルリにご飯あげに来たの。


そうだった、そうだった。


「この子が……ルリが……じゃなくて、あの……」


しどろもどろ。


動揺を隠し切れず、まとまりなく答えるあたしを真っ黒な瞳が捕える。


視線が痛い。


だから、ますます混乱した。


「おばあが……突然いなくて。あっ、居なくなったとかそういうんじゃなくて……今日……いなくて」


自分でも何を言っているのかよく分からなくなった。


目の奥がぐるぐる回る。