恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「葵! 何するんか、離せって」


「ダメさ! あの人のどこがそんなにいいの?」


「はあ? なに言っとるんかね」


「陽妃さんのとこに行かんで!」


「やしがさ、美波を迎えに行かないとさ」


葵ちゃんの手をほどこうとする海斗。


「あの人が来てから、海斗や変わったよ! 騙されとるんやさ、陽妃さんに!」


意地でも離そうとしない葵ちゃん。


「騙されとるって……陽妃はそういう人間じゃねーらん! 葵や勘違いしよる!」


引っ張り合うふたりを雨が濡らし続ける。


「はな……離せって!」


わあっと声がして、海斗が葵ちゃんから離れた。


更に雨は強くなり、石垣に身を隠すあたしの体から熱を奪っていく。


寒くなってきちゃった。


両手で肩を抱き締めた、次の瞬間だった。


「あの人のとこに行かんで! ウニゲーやっさーから!」


「どうしたのさ! あお――」


ザアアアアーッ。


雨の音に途切れた、海斗の声。


「……え」


ザアー……


雨が地面を激しく打つ音の中、あたしは雷に打たれたように、立ち尽くした。


動くことができなかった。


海斗の腕を掴む、たぐり寄せる、葵ちゃん。


重なる、ふたつのシルエット。


できることなら、目を伏せてしまいたかった。


あたしは、他人のキスを、見てしまった。


「……知らんかったでしょ。海斗や鈍感やさからね」


葵ちゃんの声で、ハッと我に返る。


「ずっと前から海斗が好きやたん……渡さねーらん、絶対。あの人にだけは、絶対に譲れん!」


雨の中、走り去る葵ちゃん。


呆然と立ち尽くしたまま動かない、海斗。


それを見て、瞬きの仕方すら忘れてしまった、あたし。


降り止まない、雨。