恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

きっと今頃、お父さんとお母さんが心配してる。


そろそろ帰ろう。


あたしは重たい体を起こして麦藁帽子を被り、立ち上がった。


白いマキシワンピの裾が潮風でふうわりと横に流れながら膨らむ。


「……えっ」


視線を上げて、あたしは固まった。


青い海へ続く、眩しい白浜。


青く輝く雄大な海をバックに、小さな女の子があたしを見つめて直立していた。


ぎょっと見開いた目でこっちを見ていた。


小麦色に焼けた肌。


丸くて大きな瞳。


赤いTシャツに、デニムのショートパンツ。


足元はオレンジ色のビーチサンダルで、見るからにまだあどけない少女だった。


白いシュシュでツインテールに結った髪型がとても似合っていた。


まだ小学生くらいだろうか。


「こんにちは」


あたしが話しかけると、


「あいっ! しゃべったが!」


と、女の子は一歩あとずさりして、向こうに叫んだ。


「にぃーにぃーっ!」


「えっ、あの……ねえ」


にぃ、にぃ、って何?


もう。


本当にこの島の言葉が理解できなくて、歯がゆいったらない。


同じ日本なのに。


「あなた、この島の子?」


あたしの質問には答えずに、女の子は砂浜の向こうに向かってさらに声を大きくした。


「にぃーにぃーっ! 人魚姫さんがおるーっ!」


そう叫んだあと、女の子は大粒の瞳をキラキラ輝かせながら、あたしを指さした。


「はあっ? 人魚姫?」


思わず吹き出してしまいそうになっていると、女の子はぴょんぴょん飛び跳ねながらあたしに飛び付いて来た。


「本物かね!」


なんて人懐こい子供なんだろう。


「ねぇねぇは、人魚姫さんよね?」


「は?」


「いつ海から来たの?」


大きな瞳をくるくるさせて、女の子はあたしの両手を掴んだ。