恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「電話番号が書いてあったからさ、おれさ、電話してみようと思ってね。本当の母さんと話したいと思ってさ」


――おばあ! ここに電話しよう! おれ、かけてみるさ!


――待ちよーさい、海斗。ならん


――何でか! 何でならんのか!


――そこに、やーのあんまーはおらん。もう、おらんよ


――なら……どこにおるんか?


――もう、おらん。おらんのさ


――どういうことか!


――くりに書いちょーよ。読んでみなっさー。全部、書かれちょーよ、海斗


「もう一通はさ……」


突然、海斗の声が上ずった。


「もう一通は……おれを産んでくれた母さんの……」


あんまーの……、と海斗が震える声を詰まらせる。


「海斗……ゆっくりでいいよ。あたし、聞くから」


今度はちゃんと、最後まで。


途中で逃げたりしないから。


海斗が話してくれるなら、あたし、聞くよ。


海斗の話、聞くよ。


「海斗、いつもあたしの話に付き合ってくれるでしょ。だから、今度は、あたしが聞くよ。海斗の話」


ありがとう、と潮騒にかき消されてしまいそうな擦れた声が返ってきた。


「それはさ、おれを産んでくれた母さんの……最期が記された手紙やたん……」


さああっ……。


それは潮騒なのか、ガジュマルの枝葉のざわめきなのか、分からない。


風が吹いて、見上げた夜空。


息を飲むほどの星が散りばめられたように、広がっていた。