恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「大切なんだよね、ひかりが」


何それ。


それじゃあ、あたし、すごい惨めじゃん。


憐れじゃん。


「だから」


と、大我は苦笑いしながら、明るいトーンの声で言った。


「陽妃も新しい男見つけてさ」


何よ、それ。


「幸せになっちゃってよ」


何それ、何なの、それ。


なっちゃって、って。


幸せになるって、そんな簡単なことじゃないのに。


幸せになっちゃってよ、うん、そうだね、はい、分かりました、幸せになります、って?


そんな容易なことじゃないのに。


「大我」


あたしはバッグをむしるように掴んで、立ち上がった。


「あ、もう帰る?」


「帰る」


「あ、じゃあ、そういう事だから。オレたち、今日で終わりってことで」


悪びれる様子は微塵もなくてあっけらかんとしてあたしを見る大我を睨んだ。


「最低!」


あたしは大我の顔面をバッグで思いっきりぶん殴って、雨の中へ飛び出した。


ひどい。


酷い。


ヒドイ。


あたし、本気だったのに。


初めての恋だったのに。


あたし……大我が思うほど強いわけじゃない。


あたしだって、ひかりと同じなのに。


誰かに守ってもらいたい。


普通の女の子なのに……。










「……ん」


目を覚まして目を開けると、頬が濡れていた。


ばかみたい。


あの日の夢を見て泣くなんて。


いまさら泣いたって、もうどうにもならないのに。


もう、遅いのに。


あの時、大我に泣きついてすがっていたら、少しは違っていたのかもしれない。


どうしてあの日、あたしは泣くのを我慢してしまったのだろう。


意識がはっきりしてくる。


ああ、そうか。


ここは与那星島で、東京じゃないんだっけ。


引っ越して来たんだっけ。


どれくらいの時間、こうして眠っていたんだろう。


燦燦と降り注いでいた陽射しは弱くなり、やわらかな西日があたりを包み込んでいた。


もうじき、日が暮れそうだ。