恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

月光がなければ、数メートル先も見えないような暗黒とした世界だ。


どこにいるの、海斗。


あたしは乱れた呼吸を整えながら肩を上下させ、目を細めて、真っ黒な海のほとりを凝視した。


「……あ」


暗く、遠浅の月光が投げ込まれている海のずっと奥に、微かに白く揺れる点を見つけた。


白い……Tシャツ?


「……海斗」


……いる。


間違いない。


その存在は時折、月光に煌めいては揺れる。


やっぱり、海斗だ。


あたしは胸いっぱいに夜を吸い込んだ。


「海斗!」


けれど、あたしの声は潮騒にあっけなくかき消されてしまう。


大自然を前に無力さを痛感し、心が折れそうで、泣きそうになった。


あたしはサンダルを脱ぎ捨て、夜に熱を奪われてひんやりした砂に足をとられながら、波打ち際まで一目散に走った。


海斗は遠浅の海の中に突っ立っていた。


腰のあたりまで浸かり、じっと水平線の方を見つめている。


あたしは波打ち際に立ち、その背中を呼んだ。


「海斗! 海斗ーっ!」


でも、やっぱり潮騒にかき消され、届かない。


あたしに迷いも躊躇もなかった。


あたしは真っ黒な海に、一直線に飛び込んだ。


バシャバシャ、海水をかき分けながらもう一度呼んでみる。


「海斗!」


海斗が、ゆっくり、振り向いた。


「……誰か……はる……陽妃かね?」


ミステリアスで切れ長の目を細めたり大きくしたりを繰り返しながら、


「陽妃! 何しとるんか!」


海斗も水を掻き分けこちらに向かって来る。


「海斗! 海斗っ、ごめんね! あたしねっ」


がむしゃらに海水を掻き分けて、掻き分けて、掻き分けて、


「あたしっ」


「ばか! 夜の海に飛び込んで来るやつがおるかね!」


「でも、あたしね」


「危ねーらん!」


「海斗、あたしね!」


こっちに向かって来た海斗に手を伸ばし、その腕を掴んだ。