恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

灰色のシルエットになった人影は門から出て来るとくるりと方向転換して、


「ちゃんと夏休みの宿題しれよ」


と門の中に向かって可愛らしい笑い声交じりに言った。


「わあたち、来年は受験生なんやからさ」


その声に拒否反応を起こして歪んだのは、あたしの眉間だった。


美波ちゃんがくるりと振り向いて何か言いたげに見つめて来たけれど、何も反応する事ができなかった。


「やっとるさあー。ちゃんとやってるだに。かしましいやっさー」


門の奥から返ってきた声は間違いなく、海斗の声だった。


最近、毎日一緒に居るから自信があった。


この数週間ですっかり声変わりした、低い声。


だけど、まだどこか不安定な、海斗の声。


「おれを誰だと思うか。完璧にやっとるさー」


夜の空間で揺れる、ボブヘアー。


あの子……。


「本当かね。どうだかあー」


あたしは慎重に息を吐き出した。


あの子。


「まあ、いいさ。じゃあね、海斗」


胸元でひらひらと蝶々のように手を振るあの子は。


「葵! 待ちなっさー、これ使え」


ああ……やっぱりね。


島袋葵ちゃんだったんだ。


「えー、何さあー」


「ほら、これさ」


と門から姿を現した長身の人影は、海斗だった。


「もう暗いからさ。使うといいさ」


懐中電灯、だろうか。


カチカチ音がして、海斗の手元で温かみのある光が何度か点滅する。


ほら、と海斗が懐中電灯の明かりを向けると、夜の空間に彼女の横顔がはっきりと浮かび上がった。


「あいっ! 眩しいば! 人の顔に向けんでよね!」


葵ちゃんが眩しそうにしかめっ面をして「いらん!」と突っ返そうとする。


「家、すぐそこやもん」


「なに言うかね。いいからさ、使え」


次の瞬間、あたしの心臓が不快な音を立てて収縮した。