恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「なんか、もう、ばかばかしく思えてきちゃった」


そう思ったのもまた、この島へきて初めてだった。


雄大な景色を前にしたら、自分の悩みなんてミジンコより小さく思える。


大我のことも、ひかりのことも。


ばかばかしくて、あたしは笑った。


東京のビルたちは当たり前のようにいつもそこにあった。


今のあたしより、遥か高い場所から、人間の生活を見てさぞや呆れていたのだろう。


緩い島風が、生い茂る木の葉を揺らす。


この島の風は、透明だった。


「ね、美波ちゃん」


「なにか?」


しゃくりあげる美波ちゃんに、そっと手を伸ばした。


その小さな肩に触れた。


「あたしね、美波ちゃんのこと、大好き」


にぃにぃが大好きな美波ちゃんが、急に愛しく思えた。


こんなに兄を思う素直な妹は、この広い世界に何人存在するだろう。


「……えっ」


真っ赤に腫れた目を大きく開いて、美波ちゃんが顔を上げた。


うらやましくなった。


誰かをこれほどまでに思える、美波ちゃんが。


誰かをこれほどまでに思い、意地だけで木に登ってしまえる、美波ちゃんが。


うらやましかった。


あたしは、美波ちゃんに微笑みかけた。


「海斗も同じだと思うの」


「にぃにぃ?」


「うん。海斗も、美波ちゃんのことが大好きなんだよ、絶対」


「……そうかね?」


片手であたしに掴まりながら、美波ちゃんはもう片方の腕でぐいっと目をこすった。


そして、おひさまみたいに、にっこり笑った。


「美波も、にぃにぃ大好き!」


吹き抜ける風が、美波ちゃんの髪の毛をさらさらなびかせた。