恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

目の前で枝にしがみついている美波ちゃんを見て、ため息しか出なかった。


腕も、足も、擦り傷だらけ。


桃色のTシャツも切れてしまっていた。


どんな思いを胸にして、こんなところまで登って来たんだろう。


そんな細い体で、こんなジャングルみたいな大きなデイゴの木に。


カタカタ震える美波ちゃんに、そっと触れた。


「美波ちゃん。ゆっくり、こっち向けるかな。あたし、ちゃんと掴んでるから」


「できーん! 怖いーっ」


「大丈夫。大丈夫よ、あたし、絶対の絶対に美波ちゃんのこと離さない!」


そう言って、美波ちゃんの腕をしっかり掴んだ。


「美波ちゃん、お願い。あたしのこと、信じて」


約束するから。


絶対、美波ちゃんの手を離したりしない。


美波ちゃんはカタカタ震えながら、震える声で呟いた。


「……絶対よね。絶対、離さんでね」


「うん。絶対よ」


傷だらけの体を少しずつ起こして、美波ちゃんがあたしの方を向いた。


「ねぇねぇ! 怖いいい」


美波ちゃんの可愛い顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。


頬に切り傷がある。


ここまで登る際に枝葉で傷ついてしまったのだろう。


美波ちゃんは本当に少しずつ、少しずつ、体勢をずらしながら方向転換した。


「美波ちゃん!」


ギシギシきしむ枝の上で、あたしは美波ちゃんを抱きすくめた。


なんて小さな体なんだろう。


どれほどの怖い思いを、この小さな体に詰め込んでいるんだろう。


胸が締め付けられる。


「もう大丈夫だからね!」


「ねぇねぇーっ!」


美波ちゃんはあたしの体にしがみついて、大声で泣いた。


「ようし! やったあ!」


下で双子が飛び跳ねているのが見える。


そして、ふたりは、


「そこで待ってろお!」


「おじいからハシゴ借りて来るからさあー」


と空き地を飛び出して行った。