恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

登れた!


下を見下ろして、目眩がした。


「ひええっ」


背中を伝う汗がひやっとする。


目の前がくらくらした。


ゴクリと唾を飲み込んだ。


一寸先は真っ暗闇だ。


思っていた以上に、けっこうな高さだった。


下で双子が固唾を飲んでいた。


「どうだね! 行けるかあ?」


行けるか、って聞かれても……。


「そっちの枝にまたがってみなっさあー!」


「その枝?」


確かに、手を伸ばせば触れられる距離にその太い枝はあって、その先に美波ちゃんの体がある。


「そうさ! それにまたがれー」


そんな簡単に言ってくれるけど……。


さすがに怖くて躊躇していると、真下から小学生たちが声を揃えた。


「ちばりよーっ!」


ちばりよー。


知ってる。


前に、おばあの家で海斗が言ってくれた言葉だ。


頑張りなっさー、陽妃い、って。


同じ意味を持つのに、頑張れと言われるより、頑張れる気がした。


ちばりよー。


あたしはゴクリと息をのんだ。


少しずつ体を前にずらし、かなりの時間を費やして、隣の枝に移った。


「美波ちゃん!」


「ねぇねぇー!」


「うわっ! 美波ちゃん、動かないで」


いくら太い枝だからといっても、さすがに小学生と高校生のふたりの重さに、グンと沈んだ。


美波ちゃんは枝にしがみついてじっとしながら、声にならない声を漏らした。


「そう。そのまま、じっとしていてね」


人間というのは、なんて未知なる生き物なのだろうと思った。


普段ならできないことも、一時の大きな感情でやらかしてしまうのだから。


美波ちゃん。


よく、そんな体でここまで来たね。


あたしは全身で枝にまたがり、ほふく前進のように枝を這いつくばった。