恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「あーい! 誰か来たよー」


「だれ?」


「美波ちゃんに、ねぇねぇはおらんよね?」


「おらんよ。にぃにぃはおるけどさ」


「じゃあ、だれか? あのひと」


「知らんの? 東京から来たちゅらさんさ!」


「美波ちゃんの隣の家に越して来たんよね」


あたしは乱れた息を整えながら、一歩ずつ、デイゴの木に近付いて行った。


「わ、こっちに来よった」


「わわっ」


まるで、あたしを避けるように道ができる。


さらさらと、穏やかな風が吹き抜けて行った。


風力は限りなく弱いはずなのに、デイゴの木の深緑の葉がざわざわと音を出して、大きく揺れていた。


こんな木に、美波ちゃんは登ったの?


巨木の根元に、ピンクと白のボーダー柄のビーチサンダルが散乱していた。


美波ちゃんのだ。


巨木がふたつに別れて、上に行くにつれて、さらに枝分かれしていた。


デイゴの木を見上げて、思わず息をのんだ。


深緑の葉から、燦然と降り注ぐ陽射し。


枝葉が豪快に伸びる彼方に、スカイブルーが広がっていた。


つるつるした太い幹に触れて、愕然とした。


こんなにつるつるしていたら、登りたくても……。


梯子もないのに。


見上げると、幾重にも重なる太い枝が編み込まれるように、屋根のように広がっていた。


その下に、幹にぴったり張り付くようにしがみついている、小さな体を発見した。


白いシュシュで結われた、ツインテールが風に揺れている。


這い蹲るように、丸々と太った枝にしがみついて震えていた。


枝葉の隙間から降る木漏れ日のまばゆさに、目を細める。


「美波ちゃん!」


ショートパンツから伸びる枝より細い裸足の足が、びくりと動いた。