「シキ」
「はい、ルカ様」
「あいつの記憶、絶対に戻ることはないのか?」
外の景色に目を向けたまま、静かにシキに言った。
またシキが、バックミラーから俺を覗き見た。
「今まで何人もの人間の記憶を消してきましたが、記憶の戻った例は1つもありません」
……そうか。
まあ、当たり前のことだよな。
魔界のことが人間に知られてしまったら、大変なことになる。
人間は混乱を起こし、悪魔はその混乱を餌とし闇に染まってしまう。
父上の作りあげてきた国は、俺らで守らなければ。
「しかし、サラ様はどうでしょう」
「………」
「サラ様には不思議なお力がございます。
もしかすると、キセキが起こるかもしれませんね」
シキは、もうバックミラーから俺を見てはいなかった。
「キセキ…か」
俺も外は見ず、座席のシートに体を預けた。


