田村君が私を引っ張って連れて来た所は裏庭だった。


まだ4月だが、あそこまで走ったのと緊張で汗がうっすらにじんでいた。


私は下を向き、息を整えた。


「なんで…走んのよ…ハァ…疲れたぁ…」


「まぁ…あんなうるさい所で話せないし、せっかくこんな良い場所に来たんだから。なっ?」


「えっ?」


私は顔を上げると…


「わぁ…」


そこには桜が空いっぱいに咲いていた。

青空が見えないほど桜が空を占領していた。


そして雪のように、ゆっくりと花びらが舞っていた。


私は見惚れてしまった…


田村君を見ると伸びをして欠伸をしていた。


「あっ…口の中に桜入った…」


と言いながら、とってその場に座った。


「なんか話しあったんだろ?」


「あぁ、うん…今日さぁ2年の先輩が田村君との関係を聞かれたのね…」


私はゆっくりとさっきあったことを話した。


頭を撫でられた所を見られたことなど…


田村君は黙って地面に落ちている花びらを触ったり、落ちてくる花びらを掴んだりしながら聞いていた。


「でさぁ…これからは、そういう行動は控えめにと言いますか…まぁ…彼女とか思われたくないでしょ?」


私は少しそう言っている自分に腹がたっていた。

何故腹がたっているのか分からなかった…


田村君は大きな目で私を見た。


その目はすこし淋しそうだった…


「別に…そんなことしたのは1回だけだったし、その先輩が納得して帰ったんならオレは…それはそれでいいと思う。でも…」


「でも…?」


「お前がオレと一緒にいるのが嫌なら…もう…いい」


…もう…いい…?


そう言うと田村君は走って帰って行った。


「何よ…もういいって…」


私は急に悲しくなった…