――これは、とある男の語り。



 突然だが、少しばかり昔話をしてみる。
 自分達の地元に三年ほど前、五十嵐(いがらし)という不良がいた。
 そいつは多数の不良を従えて傍若無人な行為を振舞った。奴はリーダーとしての器があり、尚且つ機転と腕っ節もあった男。手前の気に食わない輩は片っ端から潰し、地元の治安を揺るがした。

 主に被害を受けたのは同族ともいうべき不良達。
 奴の存在のせいで自由どころか、間接的な服従という屈辱を味わう羽目になった。

 なぜか?

 地元の不良達は社会や学校、大人といった堅苦しいルールに縛られたくない奴らが多い。
 好き勝手することで“解放感”を味わっている。

 それが五十嵐の存在のせいで縛られてしまうのだから、不良達は堪ったものじゃない。

 とはいえ、五十嵐は知能犯であり正真正銘の実力者。
 逆らえばどんな目に遭うか、頭の悪い不良でも容易に想像できる。
 誰もが五十嵐を恐れ、間接的に奴の生み出す不良同士に通じるルールに従った。

 五十嵐の地位が崩れたのは、とある二人の不良の出現によって。
 その不良二人は五十嵐の支配下に嫌気が差し、仲間を率いて『三度』、五十嵐と喧嘩を交えた。

 一度目の喧嘩は五十嵐が高校三年、例の不良二人が中学二年の頃の話。
 不良二人は仲間達共に“漁夫の利”作戦という戦法で、実力ある五十嵐を討ち取った。

 二度目の喧嘩は五十嵐が大学二年、例の不良二人が高校一年の頃の話。
 五十嵐が“漁夫の利”作戦返しを行い、かつて自分を討ち取った不良二人と仲間達に屈辱を味わわせた。この喧嘩は五十嵐が勝利を収めている。
 勝利の一因として、例の不良二人が犬猿の仲となり、それぞれチームを作ってしまったことが挙げられていた。もしも不良二人が今も同じチームだったら、“漁夫の利”作戦返しを喰らっても、五十嵐が確実に勝利を掴むことは無かったかもしれない。 

 最後の喧嘩は二度目の喧嘩から、そう時間は経っていない。
 例の不良二人が再び一つのチームとなり、五十嵐と真っ向から勝負を挑んだ。五十嵐の地位を完全に奪い、支配の座から引きずり下ろしたと聞く。