肩を持つ手に力が入った。

その握力の強さがヨウの心情を表しているようで俺は懸念を抱いた。
 

暴走しそうってわけじゃない、ただヨウの内なる中で何かが爆ぜそうな、そんなかんじ。


うまくはいえないけど今までにないヨウの一面を垣間見ている気分だ。

仇討ち戦時のヨウのことは知らないけど、シズ曰くヨウらしくない行動がちょいちょい目立ったって言ってたし。

その引き金になったのが俺なのだから申し訳なく思う。

勿論これは俺のせいじゃないって分かっているんだけどさ。
 

一抹の不安を抱いていると、目前に坂道が現れた。
 

ゲッ、右頬を引き攣らせる。
いつもだったら二人乗りしても難なく越えられるのぼり坂だけど、今の俺にあれを乗り越えられるだけの体力があるかどうか。


ええい、クソ根性出せ田山!
不良に追い駆けられる恐怖に比べたら屁でもないだろ!


立ち漕ぎで試練を乗り越えてやると意気込んでいたら、「座ってろって」ヨウが俺の肩を叩いてきた。


同時にペダルが軽くなった。ヨウがチャリから下りたんだ。


舎兄はチャリの尻を押して全身の手助けをしてくれる。

チャリを漕ぎながら後ろを振り返ると、「こんくれぇはしねぇとな」お前の舎弟に怒られる。

イケメンくんが満面の笑みを浮かべてきた。

それは俺の知るヨウそのもの。
心なしか安堵の息を漏らした。


楽ちんだとおどければ、ペダルくらいは踏んどけよ、としっかり釘を刺される。分かってると笑声を零し、俺はヨウに率直な気持ちを伝えた。


「大丈夫。乗り切れるって」


重てぇとチャリを押している舎兄に笑みを返した。


「俺、あんな目に遭って怪我は負うし。トラウマがまた増えたし。足手纏いもいいところだけど、仲間には同じ目に遭って欲しくない。
だからお前の無茶な案に乗ったりしてるんだ。今まで乗り切ってきたもんな。こっからが巻き返しだろ?」


おんなじ表情を作るヨウはいつもの口調で悪態をついてくる。


「このカッコつけ。それにテメェ、その台詞は前に俺がテメェに言った台詞じゃねえか。パクんなよ、っと!」

 
坂の頂点(てっぺん)に到着すると、軽い身のこなしでヨウがチャリの後ろに飛び乗ってくる。


下り坂を勢いよく下り始めるチャリ。

真っ向から拭く風は気持ちよく、俺の染めていないナチュラルブラックの髪も、ヨウのキンパに混じった赤メッシュも、風に揺られて忙しなく靡いていた。


気持ちがいいねぇ、ほんと。
これからすべき現実なんて忘れてしまうくらい気持ちがいい。
 

「ケイ」


「なんだい兄貴? このまま愛の逃避行したいって言うなら、それはお断りだぞ。俺にはカワユイ彼女がいるから!」


「うっぜぇ。フリーに対する嫌味かよ!」


バカチタレ。
イケメンに対する嫌味に決まってるでしょーよ。

俺がお前に言える嫌味って言ったらこれくらいだぜ? 俺からの友愛、甘んじて受け取れ!
 


「んで? なに?」

「―――…やっぱなんでもねぇ。このまま飛ばしてくれ。無理ねぇ程度にな」



なんだよ、ヨウらしくねぇな。

釈然としないヨウの態度に訝しげな気持ちを抱きながらも、目前の現実を片付けることが先だと俺は脳内を切り替えた。



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