―――…相手に情だけはうつさないようにね。未練が残るから。
 

ぼんやりと駐輪場前でジベタリングをしている矢島の脳裏に仲間の言葉が繰り返し繰り返し過ぎっては消える。

分かっていると心中で仲間に冷笑する矢島だったが、すぐに心は曇りガラスのようにあやふやな景色と移り変わってしまう。

らしくないと頭部を掻き、故意的に染めた灰色の髪を摘んだ。

早く黒染めをしたいのだが目的が達成するまでは我慢しなければ。


何が悲しくて嫌いな不良になりきらなければならないのか。そう、嫌いな不良に。

雑念を振り払うように、矢島は髪を乱して苛立たしげに息をついた。
 

すると「どうしたんです?」浮かない顔してますよ、売店から戻って来た川瀬千草に声を掛けられる。

「アンちゃんらしくないですね」

浮かない顔をするなんて、頬を崩す川瀬が買ってきてくれたカツサンドを差し出してくる。 

それを受け取りながら自分だって浮かない顔をすると苦笑い。


「なーんかあんちゃんらしくないぜ?」


谷渚がおどけながらひとつに結っている青い長髪を靡かせ、自分の隣に並んできた。

そしてジベタリング。

買って来たフルーツ牛乳のパックにストローを刺して手渡してくる。
双方お節介な不良だと内心で呆れながら、矢島はパックを受け取って礼を告げた。

純粋に慕ってくる不良二人を交互に見やると、

「何があったか知りませんけど」

「元気出せよ」

順に川瀬、谷から慰めの言葉を貰う。


ほっとけと、思った。
 

「最近頻繁に出掛けているみたいだから、あんちゃん忙しいとは思うけどさ。あんちゃん、いつも何処に行っているんだ?」


谷の疑問にやや緊張の念を抱きながら、「彷徨しているだけだ」大した用事はないのだと誤魔化し笑い。

真に受けてくれた二人は、そっかと笑みを返して何かあったら力を貸すからと申し出てくれる。

微かに胸の中の感情が波打つ「お前等は」優しいな、嘘偽りのない言葉を掛けるとアンちゃんほどじゃないと舎弟達がハモらせる。


「美形に加えて、あんちゃんは底知れぬお人好しだしな。女の子の目に留まらないのが不思議でなんないぜ」

「ですよ! アンちゃんの優しさは世界一ですから!」