「駄目ですよ荒川さん」


相手を探るのでしょう?
平常心を装っておかないと、向こうに勘付かれますよ。

利二の注意に、ヨウは分かっていると鼻を鳴らす。

いや、でも態度がゼンゼン分かっちゃないだろ。

まあ、お前の場合、矢島といると常に不機嫌になるから違和感ないけどさ。
あいつとお前はいつも仲が悪い。
 

問題はきっとヨウじゃなくて、経緯上は俺なんだと思う。
 

階段に向かっていると俺達は廊下で駄弁っている矢島と舎弟二人を見つけた。談笑しているらしく、笑声が聞こえる。

眉根をつり上げるヨウに苦笑して、今は気にしない振りをしようと助言。


まずは相手の出方を窺わな「パシ!」


……うげっ、なんか名指しされたんだけど!

ぎこちなく視線を前方に投げた俺は、こっちに歩んでくる矢島に心中で悲鳴を上げる。


なんであいつ、俺を見据えてこっちに歩んで来ているんだよ!

ナイナニナニっ、俺、朝一からお前に何かしたか?!


……にしても、腹立つぞ、その美形!
朝からカッケーとか思った俺、超乙! そのカッコ良さの十分の一でもいいから俺に分けておくれよ!
 

ずんずんっと歩いて来た矢島は俺の前に立つや否や襟首を掴んで強制連行。

「うげっ!」なんですか、いきなり! 頓狂な声を上げる俺に、「煩い!」貴様を今すぐ調教してやるととんでもねぇことを言い出した。

なして?!
俺は何もしてないのにぃい!
 

「お、おぉ俺、何かしました?!」

「昨日、改めて貴様の噂等々を洗った。その結果、あんより目立っていることが把握した! これは侮辱罪だっ…、パシリのくせに!」


「はいぃい?! そ、それだけで調教とかっ…、ぎゃぁああ! ヘンタイぃいい! やっぱり矢島さんはヘンタイだったのっ…、し、しまった。うっかりと本音が」


口元に手を当てる俺の行為は無論、無駄な行為である。まる。

足を止めて眉根をつり上げる矢島がよくぞ言ったとばかりに口元を痙攣。

あっという間に腕を首に回したと思ったら、思い切り絞め上げてきた。

ぎゃーっ! 殺されるっ、絞殺される! 美形不良に絞殺されるっ!


女子から見れば美味しい光景だとお思いかもしれないが(男視点からしたら別にどーでもいいだろうが)、ゼンッゼン美味しくない! 俺は不良に絞め殺される!