「怖くなったら仲間がきっと支えてくれる。だったら、僕はその仲間を助けるためにできることをしよう。
―――…僕なりに乗り越えた恐怖心打破策なんだ。ケイの参考になればいいと思っている」


ま、恐怖心だけは自分との闘いだから乗り越えるのはケイ自身だろうけど。

「僕にできたんだ」

ケイにもできるさ、飄々とした口振りでハジメが倉庫に足を伸ばす。

頼みもせず助言を送ってくれるなんてハジメらしいな。

軽く目を伏せて、俺は口角を持ち上げる。

鼓膜は相変わらず忙しなく働いてくれている。

ガンガン仲間の喧騒が聞こえてくるんだ。


それは喧しいけど心地良い喧騒。


静かに瞼を持ち上げた俺はそっと踵返した。

数メートル距離を置いてチャリの側に佇んでいる彼女に気付き、俺は目尻を下げる。

同じ顔を作る彼女は俺のチャリに視線を向けると、ハンドルを持ってスタンドを爪先で弾く。

次いでそれを押して俺の下へ。
 

「自転車を裏に戻すんですよね?」


勿論チャリを置く用事もあるけど、倉庫裏にはキヨタが買ってくれた飲み物達が放置されているんだ。それを回収にいかないと。

俺の行動を見抜いているココロに頷いてみせると、彼女は自分も行くと告げてチャリを押したまま歩き出す。

此方に手渡してくれないようだ。

だったら俺はココロの優しさに甘えよう。
彼女の気持ちに、少しくらい甘えたって罰は当たらないよな。
 
真っ向から吹く風を頬で受け止めながら、俺は彼女と足並みを揃える。

何も言わない俺とは対照的に、慈愛溢れた笑みを浮かべる彼女はそっと告げてきた。

既にブログを通じて体調のことを知っている彼女だけど、体調のことには触れず、俺の心に触れてくる。
 

「ケイさん。私はいつだって傍にいます。独りにはさせてあげません」

 
恐怖心に駆られ、苛んでいることを見越している彼女の発言。

ココロと倉庫裏に赴くと、彼女はスタンドを立て、その場にチャリをとめた。

次に散らばっているペットボトルを拾うと俺に歩んでくる。


始終ダンマリと佇む臆病者に微笑んでくるココロ。


そんな彼女に俺は我が儘を言った。


少しだけココロを貸して、と。
 

快諾してくれるココロは壁際に歩むとプリーツを押えながらジベタリング。

隣に座り込んだ俺は彼女に寄りかかって瞼を下ろす。