良い案を煽っている間にも田山は大人の階段ならぬ、リバースの階段を上っている。
おりゃあもう無理だっ、天国に行く、行っちまう。プライドもマナーもクソもねぇよい。
「う゛っ」
俺のうめき声にぎゃぁあっとキヨタは悲鳴を上げた。ついでにヨウも悲鳴を上げて、全力タンマをかけてくる。
「うをぉおい! こ、此処で吐かれると困る。困るぞ! 誰かビニール袋っ!」
「そんなの持ち歩いているわけナーイ!
大体よ、ヨウちゃーんが腹を狙うから悪いっ「う゛…」あ゛っ、ケイちーんがむばって! 君なら耐えられるっ、なんたって調子ノリなんだから! ヒーヒーフーしてみようか! ラマーズ法で気が治まるかもしれないのんさま!」
「ラマーズ法って出産時の呼吸法じゃ…、そ、それよりケイ! アンタお得意のノリで乗り切っちゃえ! なーんちゃって! さあ、笑って乗り切れ! 調子ノリだけに!」
「モト笑えないって! ケイさんっ、ダンボールを空にするんでっ、そそそそこに! 此処だとちょーっと不味いッ「う゛えっ」わわわわっ! 三十秒だけ踏ん張って下さい!」
かくしてわぁお素敵二日間監禁生活の舞台で、俺はわぁおリバース事件を勃発させたのである。
この結末がどうなったのかは敢えて伏せておくけれど(俺の名誉のためにな!)、俺達が助け出されたのはそれから約二時間後。
連絡を受けたシズ達(来てくれたのはシズと響子さん、それにタコ沢だ)が慎重に此処を訪れ、忌まわしき監禁部屋から連れ出してくれた。
ぐったりしている俺の耳に入って来たのは、一室外の現状。
扉の向こうにはダンボール箱が放置されていたらしい。
きっと来た時に通った広スペースにあった荷物だろう。
ご丁寧に開閉する角度の中核に積み重ねられていたとか。
荷の入ったダンボールが扉前に三つ程度置かれただけでご覧の通り、人を閉じ込めることができたとさ。
一体誰の仕業なのか、仲間達は重々しく話し合っていたけれど、
「此処に長居しても同じだ」
一先ず退却だとヨウが指示したことで倉庫を立ち去ることに。
きっと俺を気遣ってくれたんだろう。
トホホでアウチな気分、情けないこと極まりない。
仲間に声を掛けられたけど、生返事で返すばかりだったのは俺自身ショックだったからだと思う。
ある程度予想していたとはいえ、此処まで取り乱してしまったことに。恐怖心を抱いたことに。弱く臆病な俺がいたことに。
ヨウに本調子に戻されてもヘコむ俺がいるのは変わりない。



