ちょ、なんだよそれ。
お前、あんなに舎弟を可愛がっていたのに、可愛がる振りをしていたのか? していたのか?
でも矢島舎弟二人は純粋にお前のことを慕っていたみたいなんだけど。
おい美形不良、そりゃあんまりじゃね?
第三者の俺が言えることじゃないけど、同じ舎弟を持つ身分としてそれはあんまりだと俺は思うよ。
程なくして誰かの携帯が鳴った。
ギョッと驚く俺達は顔を見合わせる。だだだ誰だよ…携帯をマナーモードにしていない奴はっ!
KYだぞKYっ…、矢島に見つかっ、「もしもし。ああ千草か」な、なんだ。矢島の携帯かよ。ビビッた。めっちゃビビッた。口から心臓が出るかと思った!
音なく安堵の息を漏らす俺達を余所に矢島は何度も相槌を打ち、軽快な口調で会話をやり取り。
キャツが電話を切るとほぼ同着で、「あんちゃーん!」「また此処にいたのかよ」二つの声が聞こえた来た。
矢島舎弟だ。
「あんちゃん、ほんっと此処が好きですよね。いっつも此処にいるんですもん」
矢島に対して丁寧な言葉を使う川瀬は、探す手間が省けたと笑声を零す。
「だなぁ」あんちゃんがいない、イコール此処に来ればいいし、谷も一笑。
自分は単純な性格なのだと返す矢島は、「どっか遊びに行くか」と切り出した。
動く気配と遠ざかる声音を六感で感じていた俺等は完全に三人の声が聞こえなくなると脱力。俺に至ってはまーだ体が震えてらぁ。
でもそれを恥ずかしいとかは思わない。だってマジ怖かったんだから!
もう、し、し、しんどかった。
胃が雑巾絞りされたように捩れ曲がっている気分。
「きぶん、わるい」
おぇっと嘔吐(えず)きそうになる俺に、「大丈夫ッスか?」キヨタが気遣ってきてくれる。
答えたいけど今は余裕がないから態度で大丈夫と示した。
ぶっちゃけゼンッゼン大丈夫じゃないけどさ。
脂汗を滲ませている俺の右隣で胡坐を掻いたヨウは、深い溜息をついて「クロだったな」と話を切り出す。
「矢島の野郎。完全に里見等と会話してやがった。グレイゾーンどころか、ブラックゾーンもブラックゾーン。渦中のひとりときやがった。一方で舎弟の方は」
「オレ、あいつ等はシロだと断言できますよ。谷も川瀬もシロです。純粋に矢島を慕っている…、ただの不良ですよ」
モトが静かに返事した。
断固としてあの二人はクロじゃないと言い切るモトには、大きな確信があるんだろう。絶対にシロだと言い張った。



