嫌な汗をとめどなく流す俺は、どうしても単語を紡ぎ出したくて通行人の名前を懸命に振り絞った。
情けなく身を震わせながら、「マミヤがいる」と。
ようやく俺の動揺を理解したヨウは腰を上げ、「間宮航平か」舌を鳴らして格子窓の外に視線を戻す。
んでもってしっかり容姿を目に焼きつかせていた。
一層、震えてしまう。
ガタブルブルで座り込んでいると、「大丈夫ッス」キヨタが声を掛けてきた。
もし奴が来ても自分がお得意の手腕で相手を伸すからと舎弟。
彼に視線を流せば、
「舎弟は舎兄の背中を預かるんでしょ?」
だったら俺っちにも預からせて下さいよ、キヨタがニッと綻んできた。
不思議と震えが緩和するのは何でだろうな。
俺は力なく笑い、バラバラになった平常心を掻き集め始めた。懸命に震えを押える。
正直吐きそうだけど、我慢できないレベルじゃない。
どうにか呼吸を整えて気持ちを落ち着かせる。
俺の代わりにモトが格子窓の外を見つめ、「あいつの仕業でしょうか?」現状の犯人を定めようとする。
「さあな」取り敢えず様子見ってところだろ、ヨウは身を隠しながら冷然と答えた。
まだ間宮を犯人にするには早いと思ったらしい。
今、間宮が何をしているかは分からないけど、ヨウ達の実況曰く駐車場に入って誰かを待っている様子だとか。
二の腕に爪を立てる俺は早く此処を出たいという焦燥感と恐怖心、そして平常心を保とうと躍起に感情を入り混じらしていた。
ドッドッドと鳴る鼓動を押さえ、「間宮一人か?」俺は声音を振り絞る。
即答するモトは、今のところ一人だと小声で教えてくれる。
「里見は?」
いつも一緒にいる筈なんだけど…、俺の問い掛けにモトは向こうは一人だと繰り返した。
里見がいないなんて変だな。
あいつはいつも間宮と行動を共にしているみたいなんだけど。
手汗をスラックスで拭っていると、ワタルさんが誰か来たと声を尖らせた。
「んー…、でも誰かというか、不良達が来たというか」
不良達がいっぱい。
ワタルさんの言葉に俺は目を見開き、軽く息を詰めた。
思い出した、ぞ。
俺が見た光景を…、あの格子窓向こうで見たのは数人の不良達。
里見達と集会を開いていたんだ。
そうだ、窓向こうから言っていたんだ。
此処は“集会場”だって。
最初こそ俺を甚振っている不良達が集っているだけかと思っていたんだけど、里見は間宮や仲間と共に集会を開いていたんだ。
それで、それで、確か。



