「お、おいケイ!」
両膝をつく俺に倣って片膝をつくヨウに、此処はもう無理だと限界を訴えた。
一刻も早く倉庫から出てしまいたい。
叶わぬ我が儘な願いを口にする俺に落ち着け、とヨウが宥めてくるけど、無理だと首を横に振った。
これが落ち着けるもんかよっ、あいつがそこに、すぐそこにいるのに!
やっぱまだ立ち直れていないんだ。
あのリンチ事件のことを。
そりゃそうだろ、あんなに暴行されて平然としていられるほうがすげぇよ。
俺はすげぇ奴じゃないから発狂しかけてしまうし、恐怖してしまう。
ああっ…、来るっ…、またあの時間が。来ちまう!
「ケイ、呼吸しろ! 聞こえてっか!」
ドッドッド、高鳴る鼓動が鼓膜を支配し始める。
ヨウの声が、周囲の音が、微かな雑音さえも耳に届かない。
完全に俺の鼓動しか聞こえなくなった。
ドッ、ドッ、ドッ、リズミカルに。
けれど速いテンポで脈打つ恐怖心に俺は呼吸を忘れた。
だいじょう、ぶ。
だい、じょうぶ。
だいじょ、うぶ。
自分に言い聞かせるけど、効果なし。
まったくもって大丈夫じゃない。
なんだろう、真っ暗な闇に放られた気分だ。
脂汗が額に滲む。
息を詰めてひたすら、真っ暗な宙を見つめていると背中に大きな衝撃と痛みが走った。
目の前が花火のように弾け、おぼろげな光が差す。
肩で息をしていることに気付いた俺は、自分が呼吸を止めていることを知る。
ゼェハァと息をつく俺の耳にようやく鼓動以外の音も耳に入ってくるようになった。
目を白黒させながら俺は周りの音に集中する。
ヨウやキヨタがしきりに名前を呼んでいた。
特にキヨタからは名前を連呼されているみたいだ。
「ケイさん! ちゃんと呼吸して下さい、大丈夫ッスから!」
とかなんとか言われたら、俺も正気を取り戻すしかない、
心配は掛けさせたくない。
でもゼンッゼン大丈夫、じゃない。



