「連れて帰ってやるからな」


デレデレと頬を崩し、サドルを擦る俺に良かったなとヨウが声を掛けてくる。

うんっと頷く俺は大事なチャリが無事で本当に良かったと答えた。

チャリがないとしっくりこないんだよな。

徒歩通の寂しさと言ったらっ、やっぱ俺にはチャリだよチャリ!


タイヤはパンクしているけど、他は全然疵付いていないわけだし。

でもあの時、俺が監禁される当日にチャリがパンクしなかったら俺は里見達に遭遇しなかったんだろうな。

俺が寝坊したってことも原因の一つに挙げられるんだけど、チャリがパンクしたってのも里見達に出くわした原因の一つになっている。

もしもチャリのタイヤがパンクしなかったらスイスイーッと登校できただろうに。
 

苦笑いを零すと、「それ偶然ぽん?」ワタルさんが問い掛けてくる。


偶然にしてはよく出来過ぎていると彼は意味深に意見し、片膝を折って俺のタイヤを調べ始めた。

後ろのタイヤにあいた穴を見やり、もしかしたら故意的にあけられたのかもしれないと仮説を立てていく。


ということはなんだ?
俺は最初から狙われていたってか?

あの朝からもうシナリオは、いや、俺に送られてくる迷惑メールの数々からもうシナリオは出来上がっていたと?


……うっへーっ、恐ろしい!


「ケイ。アンタのチャリが此処にあったってことは、此処にいたってことになるよな?」
 

モトの言葉に俺は多分と首肯する。

何度も言うようだけど、俺は里見達と遭遇し失神させられた。気付けば見知らぬ倉庫の内部で、ワケの分からないまま暴行が始まったんだ。

明確にこの倉庫だとは言えない。

外側からはっきりと倉庫を見たわけじゃないからな。


内部ならまだ薄っすらぼんやり憶えているけど。


中に入ってみたら分かるかもしれない。

結論に達した俺達は、貸倉庫に入ってみることにした。

入れるかどうか不安だったけど、貸倉庫の出入り口はシャッター式で、そこは開きっぱなしだった。

ずさんな管理体制だなぁ。

やっぱ古いからか?
売れないのも無理はない。

おずおずと足を踏み入れるとだだっ広い敷地が視界に飛び込んできた。流通関係の会社が此処にコンテナやダンボールなんかを積みそうな場所だ。

「此処か?」遠慮がちに聞いてくるヨウに視線を流し、「いや違う」俺はもっと小さな部屋だったと教える。

第一こんなところじゃ俺を手錠で繋ぐなんて不可能だ。

俺が見ていた格子窓もないし。