半狂乱になって立ち上がろうとする俺の体を押さえ、モトが必死に宥めに掛かってきた。
どうせ矢島と運命の白い包帯で結ばれているんだから喧嘩はできないに等しい。
努めて説得してくるモトだけど、ゆ、ゆ、許せるかぁああ!
よりにもよって彼女の胸をあーだこうだうんたらかんたらっ、トドメにあの感触を実感していないのか? だと。
ということはお前は実感したということでっ、なんて羨ましい…、じゃね、腹立たしいことをしてくれたんだ!
マジどうしてくれよう、この男!
わなわなと怒りに震える俺に、「こ。ココロだって怒ったから」とモト。
曰く、押し倒された直後、発狂しながら谷を何度も殴ったとか。
んでもってそっと耳打ちされる。
「本当に押し倒されたかったのはケイらしいぞ」と。
途端に俺の怒り熱は羞恥の熱に変わる。
え、お、俺に押し倒され…、こ、ココロの奴、周りの奴等に公言したわけじゃ…、いやモトが知っているんだからきっと公言したんじゃ。
いやいやいや実はモトが作ったおざなり台詞ってことも。
け、けどもし本当だったら、本当だったら!
やっべぇ、なんか微妙にプレッシャーが襲ってきたぞ。
ココロを押し倒したこと…、ないわけじゃないけど、あれは暗黙の合意の上でして。
彼女もそういう流れに持ち込んだわけでして、……もっとガオーッするべきなのかなぁ。
ココロがそれを望んでいるなら、できないこともないわけでして。でもちょっと心の準備が要るわけでして。
だって俺、恋愛初心者!
一方的欲望をぶつけるって厚意には尻込みする俺がいる!
赤面する俺はその場で胡坐を掻いて唸り声を上げる。
限りない桃色オーラを発する俺に深い溜息をつくモトは、「なんとか上手くいった」と小声で呟いた。幸いなことに俺の耳には届いていない。
こうしてプチ騒動が収拾つくと、ヨウは本題を切り出した。
未だに俺とおててを繋いでいる(語弊)矢島になんでこんなことをしたのかと再三再四質問。
矢島はフンと鼻を鳴らし、パシが悪いと左手首を動かした。
よって俺の右手首が引っ張られる。
「こいつがあんより目立ったから悪い」
パシリの分際のくせに、と矢島は不貞腐れ顔を作る。



