片道三車線の道路を横切り、歩道を渡り、川原沿いを歩いて俺は一歩一歩帰路を進む。


チャリに乗っていないせいか、視界に飛び込んでくる帰路はいつもより目線が低く、普段じゃ気付かない些少の変化に目を向けてしまう。


例えば歩道の途中に落ちている菓子の空き箱だとか、アスファルトに咲いている名も知らない花だとか、建物の陰に潜む野良猫だとか。

その野良猫に相手してもらくてチッチッと音を鳴らしたけど、迷惑そうにそっぽを向かれた。
 

意識して道路の白線の上を歩いてみる。

真っ直ぐ引かれているようで、どっか曲がっているラインは何処までも続いていた。

この線の辿って終わりを探してみたい好奇心に駆られたけど、残念、途中で左折しないといけなくなったから線から離れた。

今度暇なときに試してもいいかもしれない。

 

都会に染められた風を受けて足を前へ前へ動かしていると、シズの住むアパートが見えてきた。


シズ、元気にしているかな。

ちゃんと一人暮らしできているのかな。

俺が部屋を訪れた時はまだ引越しの片付けが終わっていなかったけど、もう終わってるよな。

一旦足を止めてシズの住むアパートを見上げる。

通りからシズの住む部屋の窓が見えた。


そこから聞こえて来る声と、窓から見える人物に目を丸くしてしまう。あの見覚えのある後姿は。窓枠に腰掛けているあいつは。
 

「アンタ。ほんと馬鹿だろ」


響子さんの呆れた声音が聞こえて来る。

やや張った声音は怒気を含んでいた。


「ほーっとけ」


これは俺の問題なんだと突っぱねる声に、響子さんがやっぱり馬鹿だと罵っている。

どうしてそう無茶を重ねて破天荒なことばかりするんだ、響子さんはすっかりお叱りモードらしい。

でもお叱りを受けているそいつは、右から左に流して体を反転。


外に視線を向けてしまう。