いつまでもお粥の中身をレンゲで掻き回していると、「圭太」母さんから怒られた。

はい、すんまそ。
食べ物で遊んじゃいけませんね。
お利口さんに食いますです。

お粥を掬ってふーっと息を吹きかける。

その動作を見やりつつ母さんは、「顔色は随分いいわね」他愛も無い会話を振ってきた。


「微熱まで下がったみたいだし、もう心配は要らないと思うけど、ちゃんと薬は飲むのよ。念のために後日、もう一度病院に連れて行くからそのつもりで」


病院に、か。

俺はお粥を口に入れて咀嚼する。

肺炎になりかけたんだからと早口で喋る母さんだけど、本当は別の意図で病院に連れて行きたいのかもしれない。


俺は自分の腕に巻かれた包帯を見つつ思案を巡らせる。


「それから」


庸一くん達が毎日のようにお見舞いに来てくれているから、お礼を言いなさいね、と母さん。

返事をする俺の気持ちは体と同じくらい重かった。


ここ数日の記憶がない、それに嘘はない。


でも俺がどうしてこうなったか、肺炎になりかけたか、怪我しているのか。


その記憶はしっかり憶えている。

最後の記憶は断片的にしか憶えていないけれど、俺は憶えている。


どうしてこうなってしまったのか、一連の出来事をすべて憶えている。


恐怖心がないといえば嘘になるけれど、今はさほど恐怖心が湧いてこない。

何故か、憶えているんだけど俺が思い出さないよう努めているからだ。


だって思い出したってしょーがないじゃんか。落ち込むだけなんだから。


早く元気になって皆の下に戻らないと。


メーワク掛けたことは謝って、助けてくれたことはお礼を言って、そしてまた頑張らないと。

だよな、戻ってくるって俺、ヨウに言ったもん。

そう、戻らないと。約束は破るもんじゃない。守るもんだ!


……あれ、なんかしっくりしないぞ。
 

どうしたんだろ。

前までの俺なら、ここでもう一つ、なんかノリをかますんだけどな。


これじゃ駄目なんじゃないか?