「圭太、起きてる? お粥作ったけど、食べられそう?」

 

ゆっさゆっさと体を揺すられる。

気持ちよく微睡んでいた俺は重たい瞼を持ち上げて瞬きを繰り返した。

なんだよ母さん、もう少し寝かせてくれって。


まだ眠いんだよ。


圭太はおやすみモード。

ただいま冬眠中。

春が来るまで起きない。
 

俺はいらないと言って寝返りを打った。

んでも母さんは容赦ない。

少しは起きるよう促され、お粥を持って来るからと踵返した。


曰く俺は半日以上寝ている上に何も口にしていないらしい。

何か食べないと体に毒だと言う母さんは開け放たれた襖の向こうに姿を消した。


唸り声を上げて起床した俺は背中と節々の痛みを感じつつ、母さんの行為にやや恨めしさを抱く。

寝癖もそのままに、小さな欠伸を噛み締めた。


めっちゃだるいな。

頭も体も鉛みたいだ。

充電の切れたロボットってこんな感じなのかなぁ。


とにかく体が重いのなんのってしんどい!



あれ…、でもどうして体がだるいんだっけ。

 

頬を掻いて記憶のページを蘇らせてみるけど、ここ暫くの間の記憶がないことに気付く。

学校に行った記憶もなければ、家でゲームをした記憶も家族と談笑した記憶もない。

ヨウ達が泊まりに来た形跡もない。
ヨウ達と過ごした記憶もない。


机上に置いている携帯で日付を確認したいけど、ベッドから下りるって行為がだるいんだよな。


息をついて部屋を見渡していると母さんがお盆を持って戻って来た。

一旦机上にそれを置くと、ミニテーブルを用意してそこにお盆を置きなおす。


ベッド側に置かれたミニテーブルを一瞥する俺に数口は食べるよう命令された。


残してもいいけど一口も食べないのは禁止事項らしい。


まだ起きたばかりなんだし、食べたい気分でもないんだけどな。
 

肩を落としてレンゲを片手にお椀を持つ。真っ白なお粥に沈んでいる刻み梅干しをレンゲで潰して味を広げた。

よってお粥が紅に染まっていく。

どろっとしたお粥にべちゃっとした梅干しが広がっていくんだ。


……なんかこの表現はえぐいぞ。

もっと食欲失せる。