一言二言挨拶を交わして会釈したヨウは田山家を後にする。
寝てばかり、か。
それだけ疲労が溜まっているのか、それとも。
眉根を寄せるヨウは重々しく溜息をつき、怪我した右手を空に翳すと静かに拳を作った。
脳裏に臼井の台詞が過ぎるがすぐに払拭する。
「他人に言われる筋合いなんざねぇ」
これは俺とケイの問題で、チームの問題。
関係は俺達で作ってきた。
本人ならまだしも、どこぞと知れぬ馬の骨に言われる筋合いはない。
「俺達は異色の舎兄弟だ。誰がなんと言おうと、胸張って言い続けてやる」
そう何があっても、あっても、だっ…。
ヨウは目を細め、その手を下ろすと音なく駆け出しす。
夕風の冷たさが骨身に沁みたが、決意した心にまでは浸透しなかった。
「圭太。起きてる? あのね…、……、やっぱり寝ているわよね。庸一くんが来てくれたのだけれど」
襖の閉める音が室内を満たした。
微かに息子が瞼を持ち上げたのだが母親は気付かない。
「よ、う?」
聞き覚えのある単語に言葉を紡いだのだが、誰からも応答はなく、ベッドの住人は重たい瞼を下ろして微睡んだ。
今は眠りが一番の安息であり逃避なのだと、住人自身も気付いてはいない。
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