―――…チームから仲間(舎弟)が消えるかもしれない、なんて他人の言葉は一切信じない。


だって何があっても真っ直ぐ自分を信じてくれた舎弟に失礼だから。

例えどんなことがあっても、それこそチームが疑心を向けても、自分は誰よりも舎弟を信じている。それはあの時から約束した。



「非常識、だよな。やっぱ」
  

『B.B.B』の喧嘩を終えたヨウは、協定チームや仲間とミーティングを済ませた後、誰にも告げず田山家の前に立っていた。

本当は舎弟や彼女を連れてくるべきだったろうし、家にも連絡を入れるべきだったのだろうけれど、どうしても気持ちが先走って此処に立っている。

分かっている。
アポもなしに訪問するなんて非常識だと、分かってはいるのだ。

―…それでも。


「ちょっとだけ。ん、顔を見るだけ。できれば報告もしてぇ」
 

暮れていく空を仰ぎ、照明の点いた家を見つめながらヨウは手汗を制服で拭った。

馬鹿みたいに緊張している自分がいる。


いつもは堂々とそして図々しくお邪魔しているのに。


躊躇いを振り切り、ヨウは呼び鈴を鳴らした。

すぐ引き戸式の扉向こうから応答があり、「おばちゃん。俺」母親に声を掛ける。

玄関扉が静かに開いた。
顔を出すケイの母に会釈して、「あー。その」と頬を掻く。


しまった、口実のために見舞い品でも持ってくりゃ良かった。


手ぶらできたことを大後悔しているとケイの母が表情を和らげ、


「ごめんなさいね。圭太、寝ているの」


今日は会えそうにないとヨウの心中を察してくれる。

やはりアポなしは不味かったようだ。

普通に考えればそうだ。

相手は肺炎に掛かりかけた重傷人。
早々に会えるわけがない。

「そっか」じゃあ出直してくると苦笑するヨウに詫びるケイの母、三十分前までは起きていたのだけれど…、と言葉を濁す。
 

「ケイ。そんなに具合…、悪いのか?」


「大丈夫、寝ている時間が多いだけよ。体が睡眠を欲しているんじゃないかしら。まだ熱もあるから。
明日あさってに学校に行けるかどうかは際どいけれど、でも大丈夫よ。病院には行ったんだし。元気になったらあの子と遊んであげてね」