眉根をつり上げるヨウは、

「俺と田山がなんだって?」

用件があるなら聞くが? 冷然と物申す。

何もないと答える二人に「あっそう」、これまた素っ気無く告げて脇をすり抜ける。

その際、空き席の椅子を蹴ったものだから、教室の空気は静寂から沈黙へと変わってしまう。

皆の心境は「こわっ!」だろう。


某二人に関してはマズッたというような面持ちを作っている始末。
 

こんな空気にしてしまうくらいなら言わなきゃ良いのに。

憮然と肩を落とす利二は、自分の席に座って上体を机上に預けてしまうヨウに視線を流した。

彼は苛立ちを睡眠で解消するらしい。

半身を机上に預けたまま微動だにしなくなる。
 

徐々に会話の波が戻ってくる最中、利二は光喜から手招きされていることに気付き、足先をそちらに向けた。

廊下で待機している光喜の隣には透の姿も見受けられる。

二人に歩むと、「田山どうなってるんだ?」入院はしていないんだろ? 早速光喜が純粋に心配の念を口にしてくる。

頷く利二は自宅で療養していると息をつき、「肺炎になりかけていたんだ」容態を静かに告げる。


二日間に渡るリンチ行為、そして長時間に及ぶ野ざらし。


雨に打たれ続けていた体は限界に達していたのだ。

肺炎になりかけていたため、病院で点滴を受けて自宅療養をしている。


大事には至っていなかったので、そこは安心するべきところなのだろうが、もうしばらく学校は休むだろう。

「そっか」心配だね、透は眉根を下げる。


「圭太くんがいないから、荒川くんも荒れているみたいだね。いつもは気さくに話してくれるのに、ここ数日は特定の人としか口を利いていないみたいだし」

「余裕がないのだと思う。荒川は少しでも早く情報を手に入れたいんだ。田山をこんな目に遭わせた輩の、情報を」

「そりゃ分かるけどさ。んー、田山や五木も大変だな。俺は応援しかできねぇけど、話は聞いてやれっから」


そばかすを散りばめたジミニャーノの表情が柔和に綻ぶ。

「ああ」

その時は頼むよ、利二は笑みを返して先に教室に戻ると二人に告げた。

怖くても今はヨウの傍にいるべきなのだ。

彼を一人にしておくと何をしでかしてくれるやら、皮肉を零して踵返す。


「お前もよくやるよ」


光喜に笑われたが背で受け流した。