◇ ◇ ◇
 
 
数日後。

 
学校の問題児と称されている荒川庸一と肩を並べて廊下を歩いていた五木利二は、言い知れぬ胃の重たさを感じていた。

集まる生徒の視線にストレスを感じているというのもある。

舎弟を務めている友からストレスが溜まるのだと、よく愚痴を聞かされていたがまったくもってその通り。

恐れられている眼差し、来ないでくれオーラ、避けられる気配。

どれもこれもストレスである。


舎弟の彼ならこんなことを言うであろう。日本国は有名なストレス社会国、頑張れニッポン! 負けるなニッポン! ついでに俺もがむばる! と。


ノリを真似してやりたいところだが性格上無理があるため、断念せざるを得ない。
 

なにより今、そんな阿呆なノリをかませば隣の不良から蹴り飛ばされそうだ。


利二は内心大汗を流しながら思った。

荒川が怖過ぎる。

機嫌が地獄の底まで落ちているせいで、とてもじゃないが普段どおりには話し掛けられない。

気丈に普段どおりには振舞えているが、それ以上のことはできない。

高圧線のようにピリピリしているヨウに利二は心中で溜息をつく。


触らぬ神に祟りなし、こういう場合はそっとしておくべきだ。


が、そっとしておかない馬鹿が必ずいるのだ。

教室に入ると、わりと日向男子に属されている二人組が能天気に会話していた。


それは今、ヨウにとって尤もタブーとされている話題。



「なあ。田山って入院したのか? 喧嘩したって噂だけど。どーせ此処にいねぇってことは負けたんだろ?」

「荒川とつるんでいるけどさ。結局格好だけで弱いんだろーよ」



あぁあああっ、こいつ等は命知らずもいいところだ!

ドッと冷汗を流す利二が恐る恐る隣を見やろうとしたその瞬間、ガンッ―! ヨウが勢いよく扉を蹴った。
 
扉にはめ込まれているガラスが落ちるのではないかと懸念するほどの脚力である。静まり返る教室に硬直する生徒達、そして顔を強張らせる某二人組。