しっかりと手首に嵌められた輪を睨み、ブレザーから複数の針金を取り出すと鍵穴に突っ込んで器用にそれを動かす。

かちゃかちゃ、音が聞こえ、やがて解除音と共に輪が外れる。


「ほらもう外れちまった。おれの役目終わりじゃんかよ、なんだよそれ。ありえねぇんだけど」


後ろに手錠の残骸を放って、ケンは腰を上げる。


「おれはこれじゃ」

納得しないんだからな、勝手にするんだからな。


相手に毒づき、ケンは踵返してアキラに帰ろうと告げる。


もういいのか、肩を竦めるアキラはにもういいのだと言い切り、

「確か貴方は副リーダーでしたよね?」

ケンは帰る際、シズに声を掛ける。
頷く彼にケンは低い声で唸った。
 

「荒川さんに伝えて下さい。圭太の事件が解決できないようでしたら、貴方はその程度のリーダーであり舎兄。圭太のいるべき場所じゃない。
おれのいるチームに引き摺り込むので宜しくお願いします、と」


「ちょぉおモト!」背後にいるキヨタがモトを羽交い絞めにした。

「ヨウさんがその程度だとぉお!」吠えるモトに構わず、ケンは話を続ける。


「個人的に手は貸します。何かあればおれの携帯にどうぞ。後で帆奈美さんに頼んでココロさんの携帯におれのアドレスを送ってもらうので。
でも忘れないで下さい。おれが手を貸すのはチームのためじゃない。―――…おれの友達のためです」


鼻を鳴らし、ケンは一度だけベッドに視線を流す。

「今度はおれの番だ」

約束だもんな。
独り言を呟き、さっさと玄関に足を運んで踵が潰れてしまっているローファーを履く。


「こらケン!」


ワシを置いて行くな!

アキラの呼び掛けを無視し、ケンは颯爽と部屋を出てアパートの階段に向かう。
  

(迷惑メールの件、ストーカー事件となんか似ている。詳しいことは分からないけど…、圭太がやられた。だったらおれは)
 

それに見合う行動を起こすだけだ。

これはチームの問題ではない。個々人の問題だ。

ケンはアパートを出ると、友達と交し合った約束を果たすために一目散に駆け出した。


「だぁあもう!」


またマラソンかいのう!

アキラの嘆きをBGMにケンは青空の下を駆ける。



自分のために奔走してくれた友達を、今度は自分が助けるために。



⇒#07