目尻を下げる利二だが心中は穏やかではなかった。

荒川も勿論心配ではあるが、一番の友がこんな仕打ちを受けてしまった現実に怒りを隠せない。


同時に憂慮を感じた。
友の性格上、この事件は深い傷になるだろう。

トラウマになるかもしれない。

再起不能とまではいかないだろうが、傷になるには違いない。犯人はそれを狙っていたのかもしれない。


そう思うと、今度の敵は過激な知能犯だ。




「っ…、…い、…」




聞こえてきたうわ言。それはベッドの住人からだ。

キヨタが慌てて顔を覗き込む。

「ケイさん。どうしたんッスか?」

声を掛けると、じわりと瞼を持ち上げ、荒呼吸を繰り返すケイがそこにはいた。

脂汗を滲ませている彼は、どうにか身を起こそうとしている。


先程の行為を繰り返しそうだったため、

「此処はシズさんの部屋ッス」

だから安心していい、とキヨタが止めに入る。


相手には伝わっていないらしい。

キヨタの体を強く押しのけて、「でなきゃ」出口に向かって歩き出そうとする。


しかし彼の体を崩れた。
すかさずモトが体を受け止める。


「ケイ。もういいって。ヨウさん言っただろ? アンタを迎えに行くって。だから…、カッコつけんなよ」


肩を上下に動かすケイは、「ちがうんだ」蚊の鳴くような声で囁いた。

モトの言葉を否定したかのように思ったが、「それはおれじゃない」ちがうんだと繰り返し呟く。


そいつは俺じゃない。利用しようとしている奴等なんだ。


かえらないとまた始まる。屈辱の時間が。

今度は何をされるんだろう。

痛いだけならまだいい。
あつかったら嫌だな。


あいたい、皆に、会いたい。かえりたい。


―――…あれ、幻覚が見えてきた。皆がそこにいるような気がする。


これは夢か。

あ、ゆめか。目が覚めたらまたきっと。

おれは都合のいい夢をみている。そうにちがいない。壊れる前にかえらないと。

 
朦朧とした意識の中で、感情的になるケイにモトはアンタは馬鹿だな、と泣きたくなった。

とっくに帰ってきたのにそれすら分からないなんて。


「まだアンタの中じゃ」


監禁されてるんだなっ、どうしたらいいんだよ。
どうしたらアンタは監禁から脱することが出来るんだ?
 
モトの疑問に正解は見出せなかった。