いいや。
今はとにかく逃げないとっ、俺が弱いばっかりにまた利用されてっ、嗚呼、悔しいし、情けない。
扉は何処だ。確か右手にあったよな、あの鉄扉。
メッキ剥がれた鉄扉には錠なんて掛けれていないだろうから、取っ手を引けばきっと開いてくれる。
ズタボロの雑巾にされた俺でも開けることくらいは容易な筈だから。
しっかし這い蹲って前進するなんて、俺も、ほんと、体力がない。
ちょっちリンチされただけなのに。
(ケイさんっ、駄目ですってば! お願いですから、止まってください)
構ってられない、早く帰らないと。
(帰る? 無理ですよ。ケイさんっ…、そんな体じゃ帰れませんっ…)
駄目だ、帰らないといけないんだ。
(ココロ! どうしっ…、ケイ、何やってるんだよ! アンタまだ動ける体じゃないんだぞ!)
(モトさんっ。ケイさん、帰るって)
(帰るって。ケイ、聞こえてるか? 明日、病院に連れて行くから…、だからさっ!)
体が重い。
なんで重いとか思っているんだよど阿呆!
根性見せたれ俺っ!
弱くてもタフと根性だけは持ち合わせているだろ!
(だから動くなってっ、ケイ! ベッドに戻れよ! っ、キヨタ、ごめん手伝ってくれ!)
(ケイさんっ、失礼しますっス。ベッドに戻りましょう? ね?)
引き戻される感覚がした。
嫌だ、俺は帰るんだ。
帰らないといけないんだ。
冷たいコンクリートの床に這い蹲っている俺はさぞ息絶えそうな芋虫だろうけど、傍から惨めだろうけれど、それでもいい。帰らないと。
今がチャンスなんだ、帰らなきゃ。
また始まる、屈辱の時間が。
リンチは怖い。痛みも怖い。何より心を壊されそうで怖い。俺は壊されるわけにはいかないんだよ。
あいつ等の思惑通りになるなんて真っ平ごめんだ。