(―…ん? ケイさん? 目が覚めたんですか?)
 
 
リアルの世界は手厳しいものだと思う。

漫画や小説といった平行世界(パラレルワールド)のように事が上手く運ばないんだ。


俺、これでも一応幾多に渡って不良と喧嘩してきたんだぜ? 頑張って喧嘩してきたんだぜ?

王道展開ならそろそろ手腕が超人レベルにまで達してもいいころだし、必殺技なんてものも身につけてもおかしくない頃だ。

それくらい喧嘩を経験してきたっつーのに田山圭太のレベルは凡人レベルのまま。平凡も平凡。

毎日人を乗せてチャリを漕いでいるから、脚力が若干上がったけど、ついでに体力も上がったけど、それだけ。

超人? 必殺技? ナニソレ美味しいのレベルの話だ。

まったくもってリアルは人類に優しくないな。
もう少し夢見させてくれたっていいじゃないか。

夢さえ見れば魔法だって使える、そんな世界だったらいいのに。


(声、聞こえていますか?)


けど現実逃避している場合じゃない。

こうして奴等が来ない合間に、脱出する方法を考えないと。あいつ等と来たら、人をあれやこれやのサンドバックにしやがって。俺は袋叩きに遭っている鼠かよ。

てことは何か?
甚振ってくるあいつ等は猫か?

田山鼠は不良狩りを楽しんでいる猫に苛められているってわけか? ええいっ、なんてこったい!

俺はMじゃないっ、よって甚振られて嬉しいかと聞かれたらノーなんだよノー!

快感が得られると思ったら大間違いっ、いってぇのなんのってとんでもねぇ痛みなんだぜ!


(け、ケイさんっ! 動いちゃ駄目です!)
 

あ。

拘束されている左手が軽い。


もしかして手錠が外されているってヤツか?

だったら今のうちに、此処から脱出だ。


あいつ等、俺の携帯で名前を騙ってっ…、仲間に何する気だよ。


ヨウを狩りたい?
お黙りなさいセニョリータ!

仲間達が黙っているかよ!

あんま荒川チームを舐めていると痛い目見るぞ。マジだぞ。早く此処から逃げて、あいつ等に。

ッ、イダッ、体に今、痛みが。


(ああっ、すみませんっ。誰か、誰かっ、来て下さい。ケイさんが!)
 

なんだろう、どっか打ち付けたのか?