すると。


「なにが…あっても。おれ」


舎弟が雨に顔を濡らしたまま、シャツから手を放し、その手を伸ばしてくる。


「もど…、て…、おれは、おまえ…の」


力尽き、瞬く間に落ちるその手を掴んで握り締め、今しばらくヨウは感情を押し殺した。




「ああっ、お前は俺の大事な舎弟だ。テメェは戻って来る。戻って来てくれねぇと俺が困るよ。―――…誰よりも信じてっから」

 


不意に心身傷付いた舎弟をその場に寝かせ、自分のブレザーを脱ぐ。

濡れて脱ぎにくいが無理やりブレザーを脱ぎ、それを畳んでしまうと頭に敷いてやった。


濡れて気持ち悪いだろうがこれ以上、硬いアスファルトに寝かせるわけにはいかない。


これ以上、舎弟を傷付けるなど舎兄の自分が許さない。許さないのだ。
 
 

「ヨウ、此処にいたのかっ。どれだけ…、捜したと……ケイ」
 
 
 
背後から聞こえてくる副リーダーの声。

自分の姿を捜していたのだろう。文句を言おうとしていた言葉は途中で雨に溶け消える。


「シズ。ペンチ用意できっか?」


ケイが手錠に繋がれている。

ペンチでどうにか鎖を切って連れて帰ると告げた。


頷くシズはすぐに仲間に連絡すると言い、踵返した。


去って行くシズを見やることもなく、ヨウは四肢を投げて眠りについているケイの手を握り、こうべを垂らす。



「安心しろケイ。この仇っ、必ず…、取ってきてやっからっ…、だからっ…、俺はテメェの舎兄だ…っ、必ず仇は取ってきてやる」



嗚咽が漏れる。


「あめだ」


本当に酷い雨だな、雨なんて大嫌いだ、今日でワーストに入るほど嫌いになった、ヨウはうわ言のように繰り返し、雨と共に感情を零した。


今日の雨は冷たい。

今まで感じたことないくらいに冷たい、冷たい、つめたいのだ。



「今だけ、弱い俺でいさせてくれ。テメェなら、許してくれるだろ? ―…なあ、ケイ?」