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「はよっ。五木。テメェ早いな」
 
 
二時限目終了後に登校してきたヨウは、同じ班員でありクラスメートの利二に声を掛けた。

「何が早い、ですか」

普通に一時限目から授業を受けに来て下さいよ、文庫を読んでいた利二は憮然と肩を竦めて顔を上げる。

だってしょうがないではないか、昨晩は仲間と飲んでいたのだから。

肩を竦めておどけてみせるヨウは、自分の前の席を見やって「ケイは?」と尋ねる。

「また休みですよ」

そろそろ欠席日数を気にした方が良いと思うんですけどね、と皮肉を零す地味友にヨウは何だと眉根を下げた。


舎弟はまた休みか、昨日もだったではないか。


二日続けて休むとは…、調子ノリがいないとすこぶるつまらない、鼻を鳴らすヨウは舎弟の席を陣取って前の席に座る利二に話し掛ける。


「ケイの奴。本当に風邪なのか? 実は仮病なんじゃね?」

「自分に言われましても。メールしたら、喉を酷くヤラれているらしくて。また喧嘩で無茶したんじゃ?
それが違うなら、あいつのことですから…、きっと徹夜でゲームして体が冷えたとか」


「それ、ありえそう。ケイってゲームをやりこみ始めると、二徹も余裕でするタイプだから。自分ゲーマーじゃないとか言っていたけど、俺からしてみりゃ立派なゲーマーだぜ。
けどあいつがいないってことは、キヨタがまた嘆くってことか。マージあいつ、ケイがいないと落ち込むんだよな」


「貴方は退屈そうですけどね」


毒を含む台詞、ヨウはまあなと一笑する。


イマイチ調子ノリがいないとノリというノリを忘れてしまう。

早く馬鹿なノリを交わしたいものだと呟き、「俺とテメェで馬鹿ノリやってみっか?」ヨウは利二に提案した。

やめておくと利二は文庫のページを捲りながら苦笑した。

相手を選ばないと白けてしまうのがオチだと言われてしまい、確かにそれもそうだとヨウは顔を顰めた。


「貴方と自分がノリを交わすと、そうですね。
砂糖の入れたラーメンといいますか。塩をふりかけたケーキになるといいますか。から揚げにカスタードをつけてしまうといいますか。何が言いたいか分かります?」


「いやゼンゼン。混乱しそうだ」


「つまり、アンバランスなんです。ミスマッチともいいます。
貴方と田山は、そうですね。貴方がパンで田山が餡子ってところです。二人合わせると…、美味しいあんぱんの出来上がりなのであります。わぁあ、美味しそうな二人。素材は洋と和の異色なのにっ、わぁあ」


「は?」

「今の、ノれそうですか?」
  

「……」「……」「努めて田山の真似をしてみたのですが?」「能面で言われてもな」「これで分かったでしょ。貴方と自分じゃ」「ビバミスマッチ」「ご名答です」