「変わったよなぁ。ココロ。うじうじちゃんだったココロはもういないよ」
友達として鼻が高い、弥生のお褒めの言葉は耳に届かず。
ココロは彼氏の後を追って倉庫の外に出た。
金網フェンスに寄りかかって煙草を取り出そうとしている彼氏、一服するために外に出たようだ。
彼氏は空をぼんやりが舐めながら一服するのが好きだとココロは知っている。
「ケイさん」
名を紡ぐと、煙草に火を点けた彼氏が視線を流してきた。
「ココロじゃん」
どうした?
綻んでくる彼氏に駆け引きしてみる。
「独り占めしに来ちゃいました」
目を丸くする彼氏は、すぐに表情を戻してフェンスから背を離した。
「来いよ」
場所移動しよう。
あっさり駆け引きにのってくれる彼氏にココロは口角を緩め、地を蹴って彼氏を追い駆ける。
多忙人の彼氏を振り向かせるために、自分はこれからも努力していく。
あの子には絶対に負けない。
ちなみにこれは余談であるが。
「よ、よ…ヨウ。お前は俺の兄貴だよな? 兄貴だよな! ……っ、舎弟の切な悩みを聞いてくれっ。そのっ、ディープキスってどうやるんだ」
「…は?」
「俺はすべての羞恥心を捨てて、お前に悩みを打ち明けているんだ! 俺はお前と帆奈美さんのディープを見たことがある!
だから分からないとは言わせない! なあ頼むよっ、ヨウ、ヨウゥウウ!」
「どうって…、普通にすりゃ」
「普通ってのが分かんないですよ! すんませんね、初心者で! 飴玉の味からテクからナニからっ、お、教えて下さい兄貴ィイイ!」
「あ、飴玉の味だ? なんでディープにそれが必要なんだよ」
「いやだから。その、うっわぁあああ! 俺とココロの失敗談を話さなきゃなんない? なんないか? ちょっち待て。
えーっと何処から説明っ…、嗚呼、恥ずかしさのあまりに蒸発しそう」
「(~~~ッ…、ハジメ、弥生。あいつ等ダブルデートでナニやらかしやがった。どーして俺にこんなクソメンドクサイ悩みが回ってくるんだよ!)」
ケイがディープキスについて舎兄に相談したおかげさまで、ヨウは相手にどう説明すればいいのか、どう相手を納得させればいいのか、頭を悩ませる羽目になったとかなっていないとか。
この相談の結末は舎兄弟のみが知っている。
⇒#05