「―――…え、じゃあディープキスはしなかったの?」
 
 

翌日のスーパー付近倉庫裏のたむろ場にて。
 
ココロはダブルデートを仕組んでくれた弥生に、こっそりと昨夜の出来事を報告していた。

彼女は好敵手が現れても簡単に距離が詰められないように、わざわざダブルデートまで仕込んで刺激を与えてくれたのだが、結局自分は彼氏とディープキスというアダルトタッチなキスはできなかったと苦笑する。
 
「ケイのヘタレ」

あんなに追い詰めたのに…、弥生は憮然と肩を竦めた。

「お子様なんですよ。私達」

ココロは自分も怖じてしまったのだと吐露。

自分達のペースで進展していくしかないのだと気付いたのだ。


次いでココロは弥生に向かって微笑する。


「弥生ちゃんの言うとおり、ケイさんって隠れ肉食だと思う。結構強引なところがあったから」


ディープこそできなかったけれど、それに似つかわしい行為を貰ってしまった。弥生の用意した刺激は十二分に効果を発揮したのだ。

「強引にさせたのは」

私自身の駆け引きが実ったこともあるからかもしれない、ココロは悪戯っぽく笑みを零す。

やるじゃん、弥生は目尻を下げて茶髪の髪を風に靡かせた。


「恋愛って受け身じゃ絶対駄目なんだよ。

男が動く。それが当然。
そんなの漫画の世界だけ。リアルの世界じゃ通用しないんだ。

駆け引きする努力くらいしないと…、それが女の強みでもあるんだしね。

あーあ、それにしても羨ましいな。彼氏がロールキャベツ男子とか…、私の彼氏、生粋の草食系男子だからさ。ディープを仕掛けたの、私だったりするんだ」


「や…、弥生ちゃん…、大胆だね」


「しょーがないでしょ。ハジメがドドドヘタレなんだから。私が攻めていかないと、なっかなか進展しないんだよ。その点、ココロは羨ましいよ。
あの子に負けちゃ駄目だよ。過去のケイを知っているのがあの子だとしても、ココロの強みは今のケイを知っていることなんだから」


助言と励ましにココロは小さく頷き、倉庫内をぐるっと見渡す。

目的の彼氏を見つけた。彼氏は地図と睨めっこしている舎弟とナニやら話している様子。

さっきは舎兄と騒いでいたというのに、本当に忙しい人だ。自分の彼氏は。

自分に気は回してくれるけれど、受け身のまま彼がこっちに来てくれるのをいつまでも待つ、では時間だけが過ぎてしまう。


ココロは彼氏が倉庫の外に出ると気付き、両手を合わせ弥生に謝罪すると会話を打ち切って駆け出した。