「ん? 声が聞こえる」



階段を二段越しに跨いで教室を目指していた俺は二階で足を止めた。


俺の立ち止まったフロア付近には学年という学年はない。


図書室とか、美術室とか、第一理科室(第二理科室は四階に存在する)とか、理化準備室とか、そういう移動教室で使われそうな部屋が多数存在しているんだけど…、美術室前から歓喜というか、喜びに満ちた声が聞こえたんだ。


美術室前から声って…、うーん、どっかのクラスが美術室を使うなら、もう中に入ってるだろうし…、さほど気にせず段に足を掛ける。


「あんちゃん! 舎弟の噂、順調に広がってるみたいだよ!」


ん? 舎弟の噂?
 
会話の切れっ端を耳にして思わず足を戻した。んでもって、聞き耳を立てる。


「やったね、あんちゃん」


喜色に溢れた台詞に便乗して、


「ほんとですよ!」


これまた喜色溢れた台詞が廊下を満たす。


だけど、「阿呆が」ハスキーボイスが喜色を打破。
今からが本番だ、本腰を入れておけと喝を入れた。
 
というか本番にも入ってないではないか、ハスキーボイスが不機嫌に吐き捨てる。
 


「どうなっているんだ。荒川は仲間意識が高いのではないのか? 舎弟の噂を流せば、必ず食らいつくと思っていたが…、あんが間違っていたか」


「なっ、アンちゃんが間違ってるわけないじゃないですか!」

「そうだよ、あんちゃん、これからだよ!」



………。


確か被害者さんの証言によると、(偽)田山圭太騒動を起こしてくれているのは、三人組で、舎兄弟っぽくて、リーダーっぽい奴の一人称が妙…だったな。

会話だけならバッチシビンゴじゃないかよ。

舎弟や荒川のお名前まで出てきてるし?