プチパニックを起こす俺はヤラれたと羞恥を噛み締めた。

舌を鳴らしてココロから視線を逸らす。


「本当は」ケイさんと行きたいんです、ココロの蚊の鳴くような声を右から左に聞き流し、俺は顔に熱を集める。耳がやけに熱い。

嫉妬していた俺、めっちゃ情けない。

いつまでも黙っている俺に不安になったのか、ココロが視線を一点に集めてくる。


俺は視線を泳がせながら一言、「違わない」とだけ伝えた。


今の俺にはこれが精一杯だった。
負けず嫌いを発揮した後のこれだぜ?

そりゃもう、変にカッコつけても余計カッコ悪いだけだろ!


後ろには弥生とハジメがいるっつーのに!
 

返事にココロは悪戯っぽく笑う。

チャリのハンドルを握っている俺の右手に手を重ねて、サッカー観戦は断ったのだとはにかんだ。

スポーツ観戦に興味がないというのもあるらしい。

「だけど」ケイさんが行ってくれるなら行きたいと、可愛らしい我が儘を口走ってくる。


俺は野球派なんだよな。


べつにキャツへのあてつけじゃなく、純粋に我が家は野球好きなんだ。
時々観戦にも行くし。

だから野球観戦でいいなら一緒に行こうか、と仏頂面のまま相手に告げてみる。

満面の笑顔でココロはうんっと頷いた。
 

一本どころか三本も四本も取られてしまった気分になり、俺は苦虫を噛み潰したような顔を作ってしまう。

背後を一瞥すると、ココロに向かってピースする弥生の姿。


これはお前の入れ知恵だな!


更にハジメの一笑に俺はグルだったのだと気付き、ヤラれたと肩を落とす。

なんでココロが突発的な駆け引きを仕掛けてきたのかは分からないけど、お前等、特にハジメ、覚えとけよ!
 
 

出鼻から散々な目に遭った俺の不幸話はさておき、ダブルおデートとやら開始される。

普通ダブルデートといえば、王道に遊園地を想像するものだけど生憎俺達は学校帰りの学生さん。王道は諦めなければいけない。

今から行ったって閉会時間を迎えるだけ。

入場できてもちょっとしか遊べないだろう。じゃあ何処に行くのか。


答え、近場のドーナツ屋。