ガリガリと頭を掻いた俺は、フンと鼻を鳴らして早く行こうと皆に告げて歩き出す。

とにかく正門から立ち去りたかったんだ。

「あ。待って下さい」

ココロが隣に並んできた。

見上げてくるココロに視線を流すと、「あのですね」彼女があどけない笑顔で話題を振ってくる。

これが世間話なら俺の機嫌は緩和されただろうけど、残念なことに彼女の口から出たのはキャツの話題。


「さっき五反田さんとお話していたんですけど、今度大学サッカーの試合に誘って下さるそうです。その時はケイさん、行っても良いでしょうか?」


大学サッカーの観戦にお誘いされた、だと?

てことはなんだ。

五反田の野郎、ココロを本格的に狙いだしたってことか?
それとも俺への挑戦状か?

というかココロ、あいつと行きたいのか?

いやでも俺にちゃんと断りを入れるその律儀さは健気といいますかなんといいますか。


ウワァアアアイライラモードがピークに達したんですけど!


変なところで負けず嫌いが出てしまった俺は、

「断りなんていらないのに」

とぶっきらぼうに返してしまう。

目をぱちくりするココロは、「じゃあ」行きます、と笑みを浮かべてきた。


俺的には大ダメージである。

だってブラックリスト男と一緒に試合を観に行きたいと言われ、承諾したら笑顔。

ダメージを受けないわけがない!

これでもハートが繊細なんです、田山!


嗚呼、つり上げた眉根を微動させてしまう俺は、器が小さいのだろうか。

男的に駄目な類に入るんだろうか。
 

自分でも分かる不機嫌の度合い。

絶対にココロにだけは八つ当たりしないよう、心がけるつもりだけど下手に口を開いたら傷付けてしまいそうだ。

機嫌が低空飛行していく中、ココロが見計らったように「ケイさんに言って欲しかったです」と唇を尖らせてくる。


何を?


素っ気無く視線を流せば、彼女が膨れ面で「五反田さんと行って欲しくない。そう言って欲しかったです」強く返事される。



「私だったらヤですもん。ケイさんが知らない女子と二人だけで試合を観に行くなんて。ケイさんは違うんですか?」

 

……、はい?


目を点にする俺は、やや間を置いて気付いてしまう。
 

は、は、謀られた。

ココロに試されたよ、試されちゃったよ!

恋の駆け引きってヤツか今の?

え、なにそれ、唐突過ぎる。

展開が急すぎてワケワカメ!
ココロ、そーゆー子じゃないだろ!

なんで駆け引きとかテクニカルなことをしてくるわけ?!